第89話 応援、開始

《side東堂歩》



「──よっと。時音ちゃーん、へいパス」

「ちょっ!? 相変わらず無茶苦茶しますね歩さん!」


 苦情と同時に風切り音。時音ちゃんによって生み出された魔導の剣が、俺の蹴り上げたイクリプスを斬り刻む。

 虎型と呼ばれるBランクのイクリプス。相変わらずのSAN値直葬ナマモノは、時音ちゃんの実力では若干荷が重い相手。

 だが、敵がマトモに身動きのとれない空中なら話は別。多少慌てはしていたが、問題なくイクリプスを仕留めることができた模様。

 暇な時とかに稽古をつけてあげたりしていたのだけど、ちゃんと成長はしているらしい。


「アレが今回のボス枠だったんだっけ?」

「はい。あとは猫型や犬型だとか。……あ、はい。すでに他エリアの方々が、残りのイクリプスの殲滅に移ってるそうですよ。私たちも掃討に参加しましょう」

「ほいほい。にしても、なんか新鮮やのう」

「ですねぇ」


 二人で移動しながら、しみじみと呟く。こうして現場に出て実感したけど、日本とアメリカ、いやバージニアって全然違うわ。

 日本の場合、ナマモノが発生したら待機中の戦姫が即座に急行し、殲滅。その間、現場職員たちは対象エリアの封鎖に尽力するが、ナマモノと戦闘することは滅多にない。せいぜいが死ぬ気で足止めするぐらいだ。

 だが、これがバージニアだと違う。ここにはチミっ子こと、規格外のエンチャンターがいる。

 あのチミっ子の魔法によって、バージニアの支部の現場職員たちは戦う力を備えている。正確に言えば、現場職員の中に戦闘を専門とする部隊がある。……チミっ子のリソースの関係で、Cランクのナマモノまでしか相手どれないとのことだが。

 だが、火器のアドバンテージが復活する意味は大きい。威力不足で攻撃の通じない大物さえ戦姫が狩ってしまえば、人類の専売特許である技術とマンパワーによるゴリ押しが可能となるのだから。

 そのありがたみを、現在進行形で俺たちは体感しているわけだ。いや本当、戦いは数ってマジで真理よ。


「雑魚を気にする必要がないってのは楽だねぇ」

「そうですね。ここ以外では、複数人で散開しつつ、大物含めて全力で殲滅するのがスタンダードですから。彼らを見習い戦姫レベルと過程しても、十分すぎる戦力です」

「チミっ子カスタムの武器、日本にも輸出してくんねぇかなぁ」

「あはは。それは無理ですよ。エマさんであっても、バージニアだけで手一杯って言ってましたし」


 そうなんだよなー。世の中、そうそう便利な話なんてないという。

 まず、チミっ子の魔導は永続バフというわけではないそうで、時間経過でチャージされた魔力は減少していく。だから定期的に魔力を込める必要がある。

 そんで、バフの効果と数量はトレードオフだ。チミっ子が自分の戦闘で使う分には問題ないが、支部で消費される『物資』という形になるとそうはいかない。

 ナマモノとの戦闘が可能になる威力、有事の際に対応できる量の備蓄、チミっ子の戦闘能力の維持など、諸々の兼ね合いの結果、チミっ子カスタムはバージニア州だけに留めることが限界という結論が出ているとのこと。

 自国にすら満足に行き渡ってない代物を、他国に融通するわけもなく。もし多少の余剰が出たところで、日本にやってくることはありえないという悲しい現場である。


「悲しいねぇ。装備さえありゃ、俺も自力でナマモノをぶっ殺せたんだが」

「あれ? 念のためってことで、拳銃と弾薬は支給されてませんでした?」

「確かにされてはいるけども……。ほら、飛び道具じゃない方がいろいろと試せるやん?」


 そりゃ借してくれたよ? でもさー、銃って技の入る余地が少ねぇじゃん。せいぜい精密射撃と早撃ちぐらいだから、あんまり唆られねぇんだよなぁ。


「んー、どうなんでしょうねぇ? そんな上手くもいかない気も……」

「というと?」

「永続強化と一時的な強化の違いというやつです。エマさんの武器がイクリプスに通用するのは、物理攻撃が効くようになっているのではなく、込められた魔力がダメージを与えてるだけなんですよ」

「……つまり、ゲームのステ上昇バフというより、固定ダメージ系のバフと?」

「そうですそうです! あと多分ですが、回数制限付きです。というか、効果を発揮するのは一回限定じゃないかと」

「なーるーほーどー」


 それは確かに難しいかもなぁ。ナマモノの物理無効の壁は分厚い。魔力が一定ラインを超えてなければ、あらゆる攻撃が意味をなさない。それは俺がもっとも実感している。

 ダメージさえ通れば、やりようによってはなんとかなるような気もするが、なんとかならないような気もする。少なくとも、断言はできんよなと。


「まあ、歩さんに私たちの常識を語ったところで、あんまり意味もない気もしますが。いつものようなデタラメで、常識的なアレコレを無視しそうですし」

「うーむ。その辺りを含めて検証したいんだが……」

「無理だと思いますよ?」


 あ、やっぱり?


「エマさん、あの一件から歩さんを完全に天敵扱いしてますからねぇ。お願いしたところで、涙目で全力拒否するかと」

「戦力増加って名目でも駄目かね? ボス経由とかでお願いしてもらって」

「歩さんの場合、現状でも過剰戦力気味ですし……」


 むむむ。いやうん、そんなに困ってはいないのはその通り。


「相手の最重要人物の機嫌を損ねてまで押し通すには、少しばかり理由が弱いですよね。結局、私たちは期間限定の戦力です。歩さんが過剰に強化されたところで、両陣営ともにあんまり意味がないかと」


 向こうからすれば、現状維持で問題なし。こっちからすれば、あくまでバージニア限定の強化モードなので、相手に無理を通すほどでもない。

 結局、困ってないなら、余計なことはしないでおきましょうと。お姫様を泣かせるのは控えましょうと、そういう話に落ち着くと。


「うーん、残念。なら諦めて、貴重なレジャーを堪能するかねぇ」


 大人しくシューティングゲームで我慢するか。


「完全に自分で倒す気ですね。でも歩さん、銃に関しては本当に素人ですよね? 部隊の人に使い方とか訊いてましたし」

「ド素人だったのは否定しない。銃のアレコレはマジでなんも知らんかったからの」


 究極的に言ってしまえば振ればいいだけの剣と違って、銃はいろいろとギミックがある。その癖、フィクションとかでは細かい部分は省略される。

 フィクションを教科書にしている身からすると、基本の動作がどうしても抜けるわけだ。俺、別にミリオタではないし。


「セーフティーとか、リロードの仕方とか、いろいろ教わったよな。あとはちょこっとだけ撃たせてももらった」

「内容を訊く限りだと、全然大丈夫じゃないんですが?」

「──いやいやいや。それだけやりゃ十分だわ」


 時音ちゃんの疑問に苦笑。そして跳躍。雑談を交わしながらも、しっかり補足していたナマモノたち。その群れの中心へと降り立った。


「ギュア!?」

「ギュ! ギュギュッ!!」


 唐突に人間が降ってきたことで、沸き立つナマモノたち。耳障りな鳴き声から感じ取れるのは、驚愕と戦意、あとは食欲か。


「……さて、と。雑魚戦だし、いつものとスタイルも違う縛りプレイなわけだが」


 うん。その気になれば瞬殺可能。ふんじばって、時音ちゃんにトドメを刺してもらえばそれで終了。

 だがこれはレジャー、アクティビティだ。だったらやるべきは瞬殺ではない。大切なのは楽しむこと。


「銃なんて基本的に縁のない代物だしな。こういう時は、テンション上げていこうじゃねぇか。──『サンタマリアの名に誓い、全ての不義に鉄槌を』ってなぁ!!」


 ──悪徳の街で培ったガンアクション、ガッツリお披露目してやんよ!!






 ーーー

 あとがき


 前回で、思いのほか先輩へのヘイトが確認されたので補足。


 まず大前提として、戦姫たちの中の主人公の認識は『無敵の怪物』です。なので目の前で殺されかけようが、どうせ死なないと思ってるので基本的にスルー。しかも、大抵が自業自得案件なので。まあよくて中立、内容次第では普通に相手の肩を持ちます(時音は例外的に恋愛フィルターで中立以下にはならない)。

 なお、それでも組織の一員なので怪我、または死んだ場合はちゃんと然るべき対応はした。


 次に先輩の態度ですが、彼女はグループのリーダーなので。相手陣営の要人にタチの悪いイタズラかました挙句、暴走させてその場にいた全員を危険に晒した以上はね……。まあ主人公を擁護することはできませんよと。普通に自分も巻き添えで死にかけたので、辛辣なのはある意味で当然。

 主人公もその辺は理解してるので、特に怒りはしません。効きもしないので、暴力を振られようが気にもとめない。

 もちろんエマも、というかエマが一番悪いのですが、その辺はしっかりボスが筋を通そうとしてたし、その上でグループのリーダーである先輩がお互い様で手打ちにしたので、主人公もじゃあそれでと済ました。……というか、そもそも誰が悪いとか興味がなかったが正しい。だって罰が降ったところでどうとでもあるから。


 最後。これが一番根本的な理由。単純に、普段の関係性から、先輩は主人公に対して塩対応がデフォ。まず先輩の性格もそうだし、主人公は主人公で気にしてるロリネタを擦ってくるし。

 まあ、お互いに言動がアレな自覚はあるので、そういうものだと受け入れてる。なので暴言が飛び交う中ではあるけど、険悪ではないのが一番の理由。



 結論。主人公の扱いが特に悪いわけではない。雑な扱いは内輪ノリに近い。ただ善悪の判断基準がわりと常識に則ってジャッジされるので、悪ふざけで不利益を発生させたらシンプルに怒られる。




PS.カクヨムコンが近づいてきたので、更新の優先順位とかアレコレ考えます。方針が決まったら、活動報告でお知らせします。また次話投稿したさいにあとがき設けます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る