第88話 やべぇ奴とアクの強い奴ら その三
《side東堂歩》
えげつないレベルの説教を喰らいました。まる。
「子供をいじめない。あとで謝る。じゃなきゃ殺す」
「いや最後」
端的な殺害宣告は大草原不可避なんですのよ。しかも先輩、絶対にやりますよね? 不可能だって分かりきってるから本気で殺しにきますよね? ……まあ自業自得なので受け入れるんですけど。
「ともかく、もう後輩はふざけないで。というか喋るな。話が進まない」
「うす」
「喋るなと言った」
理不尽では? あー、はいはい。ジェスチャーですね分かりましたよ。
「──本当にうちの馬鹿が失礼した。代表して謝罪する。申し訳ない、ボス」
「いや、こちらこそ謝罪させてくれ。そもそもエマの態度が原因だし、過程はどうあれ同盟国のエージェントを殺しにかかるなど論外だ。周りを巻き込みかねない攻撃でもあったし、罪人として拘束するのが筋というもの」
ま? あのメスガキ犯罪歴つくの? ……いや、そりゃそうか。普通に考えてアカンことやってるもの。
「待ってボス。流石にそれは彼女に悪い。私たちは気にしていないし、煽ったのはこちらの馬鹿。処分の軽減を求める」
「……そう言ってくれて助かるよ。筋云々と語ったものの、状況がエマの逮捕拘束を許してくれないんだ。彼女は貴重な、それでいて我々側の最高戦力でね。どうしても欠くわけにはいかないんだ。なので、ある程度の処分で手打ちとしてほしいというのが、正直な感想でね」
「もちろん。お互いにゴメンなさい。あとは各陣営で内々に。それでこの件は終わり」
「感謝する。歩もそれで構わないかい?」
指で丸を作ってOKの意を示す。先輩に殴られた。返事すら認めないレベルで喋るなって言っておいて、この折檻は理不尽では?
「それじゃあ、自己紹介に戻ろう。いろいろとあったせいで長くなったからね。そろそろ終わらせるとしよう」
「同意する。それに個人的に気になる点もあった。彼女、エマがそちらの最高戦力というのは事実?」
「ああ。気絶して運ばれていった本人に代わりに、私が紹介させてもらう。彼女はエマ・ウォーカー。齢十にして、ステイツの中でも三指に入る力を備える天才少女。トップの中のトップである──Sのランクを戴く戦姫だ」
……ま?
「え、Sですか!?」
「……マジか。いや、確かに後輩に向けた攻撃はかなりのものだったけど……」
時音ちゃんも先輩も驚いてーら。いや、実際それぐらい衝撃的ではあるよ。
関東支部のトップである先輩ですら、そのランクはA。それでも日本でもトップクラスの扱いとされているし、ボスの台詞から察するに他国にも名前が轟くレベルなわけで。
その上、つまり最上位のランクであるSとなれば、ねぇ? 実力は当然ながら上だし、希少性はもっと上。アクダマ曰く『絶滅危惧種&天然記念物』の類いだそうで。
そんなのが目の前に出てくれば、そりゃ驚くというものよ。……あと個人的に言わせてもらえば、全然そうは見えなかった。
「まあ、態度はわりとトップ寄りというか、女王様っぽい感じだったが……」
「黙れ」
「先輩? 流石にもうふざけないんで、喋らせてくれませんかね? ジェスチャーはちと不便がすぎまさぁ」
「……」
暫し先輩が沈黙。そしてクイッとボスの方を見ろとジェスチャー。許可を仰げということだと思われる。
「ふっ」
そしたら指で丸を作ってのOKサインが飛んできた。さっきのお返しというやつだろう。やはりボスだこの人。アメリカンに粋なことをしてくれる。
「で、あのチミっ子がそんな大層な実力者ってガチなんです? ホラードッキリで気絶するようなビビりにしか思えませんで?」
「HAHAHA。それに関しては、あの子がまだ子供だからだね。年相応さというやつだよ。──だが実力に関しては本物だ。あの子は生粋のワンマンアーミー。それは私が保証しよう」
曰く、あのチミっ子は【チャージ】という魔導を使うそうだ。その効果は単純明快で、物体に魔力を込めて強化するというもの。
チミっ子はその魔導を主に銃火器に使用することで、遠距離から一方的に超高火力を叩きつけるのだという。
拳銃、マシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフル、グレネードにアンチマテリアルライフルetc……。多種多様な兵器に、最高位にカウントされる戦姫の馬鹿魔力が加わることで、それはもう愉快な結果になるとかなんとか。
「そしてバージニアの戦姫が二人しかいないのも、エマという存在がいるからだ。彼女のチャージはかなり持続するため、定期的に弾丸に魔力を込めておけば、その恩恵を我々も享受することができるというわけさ」
イクリプスのもっとも手に負えない部分は、物理攻撃を完全に無効化する点にある。逆に言ってしまえば、火器が通用するならわりとなんとかなるということ。
チミっ子という優秀なエンチャンターがいるこのバージニアなら、その『もしも』が現実になるということらしい。
「下位のイクリプスなら、訓練を積んだ兵士で安全に処理できる。中位でもある程度の危険を許容すればなんとかなる」
「へいボス。なら応援とかいらないのでは?」
「いやいやいや。それは違うとも。確かに戦闘可能な人数という意味では、この支部は人材が豊富と言えるのかもしれないがね。やはり常人はどこまでいっても常人さ。こうした非常事態となると、誤魔化しも効かなくなってくるものだ」
「ほーん」
まあのー。大量発生ともなると、中位以上もぽんぽん出てくるからなぁ。ナマモノを視認できるって時点で希少な人材だし、あんまり消耗するわけにはいかんのだろう。
「創意工夫にも限界がある。そう言われたら納得するしかないわな」
「そういうことだ。……まあ、それがエマにとっては気に気に食わなかったらしいのだがね」
「というと?」
「今言ったとおり、我々は普段からエマに頼りっぱなしでね。だからこそ、彼女も自分の力で支部を回しているという自負があったのさ。だからこそ、他国からの応援というものを認めたくなかったのだろう」
「なるほどねー……」
自分の力不足を突きつけられてるとか、そんな風に思っちまったのかねー?
責任感が強いというべきか、スタンドプレーばっかりする天才特有の傲慢さというべきか。
「おかげであの態度さ。普段頼りきっている分、いろいろと甘やかしてきたことも裏目に働いてしまった。そちらには悪いことをしたと、本当に反省しているよ」
「謝罪はいらないよボス。もう手打ちは済んでるから」
「おっと。そうだったな」
うーん、この。先輩とそれっぽいやりとりしてるところ悪いんだけど、台詞が完全に保護者のそれなんだよなぁ。やんちゃでこまっしゃくれた娘の教育に悩んでるパパよ。
「ま、結局は子供のしたことですしねー。そういうのを受け止めるのが、年上として役割じゃないかなと思いますし」
「時音の言う通り。悪い部分があったら、次は駄目と叱ればいいだけ。生意気なのは間違いないけど、言動からして根は素直で悪い子じゃないはず。ならリカバリーは可能。……この人間性スクラップより全然マシ」
「なんで今ノールックでこっち刺した?」
あと人間性スクラップってどういうことじゃい。せめてジャンク品と言ってくれ。なにが違うんだと問われれば全く知らんけども。
「ありがとう。私の立場で言うべきことではないが、是非ともあの子に良くしてやってほしい」
「了解、ボス」
「もちろんです!」
「んー……」
……よく、できるかねぇ? いや、心情的に無理とかそういう話ではなく。もっと現実的な部分でよ。
さっきの一件、絶対に致命的なことになってるよなと。歩み寄ったところで逃げられそう。全力で、それこそ銃弾ばら撒きながら逃げそう。そんな気がそこはかとなくする。
「……はいはい。分かっりやしたー」
ま、他所様の頭が直々に頭を下げたんだ。それも子供のことで。なら善処するのが人情だろうて。
アメリカでの日々も、中々に癖のあるものになりそうですなー。
「……え、あ……その……」
ちなみに全力で気配を消してたもう一人が、自分の自己紹介の番になって呻き初めました。
めっちゃ頑張ってまとめると。イザベラちゃん十六歳。近接系のランクがAの戦姫。特徴は日常生活に支障出てない? ってレベルのコミュ障だよ!
……チミっ子以上の問題児な気がしてならないんだけど、俺の気のせいだったりしない?
ーーー
あとがき
盛大に更新滞ってゴメンなさいね!? ちょっと書籍化作業やら腱鞘炎やら新作執筆やらでバタついてたの。
で、ここからは宣伝。詳しくは活動報告に書いてあるので、ザックリめにしますけども。
カクヨムコン一般枠ラストチャンスということで、お祭り用に用意した新作を投げました。
【ダンジョンマスターになった僕は、今日もまた世界と命を天秤に載せる】です。
ジャンルは現ファ、ステータスとかスキルとかあるダンジョンもの。……そしてシリアス方面に舵をきった内容になっております。
まだ出したばっかりで、そんなに文字数はないですが。書きだめで五万、話数にして十数話はありますので。
是非とも皆さん読んでください。そんで面白い、続きが気になるとなったら、フォロー、ハート、星をください。
てことで、デュエル。
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