第87話 やべぇ奴とアクの強い奴ら その二

《side東堂歩》



 なんかチミっ子からの印象が最低値を突き破ったような気もするが、変人扱いはいつのものことなのでスルーした。

 で、ギャースカ文句言ってた側が警戒して引き下がった隙に、自己紹介タイムに移ることに。また騒がれて話が進まなくなっても困るので、こっちから始めてなし崩し的に進行してしまおうという魂胆である。


「日暮ノア。日本蝕獣災害対策局、関東支部に所属している。戦姫としてのランクはA。レンジは近〜中距離。どっちでもいける」

「同じく関東支部所属の、小森時音です! まだ新人で、戦姫としてのランクもCですが、精一杯頑張らせていただきます! 戦闘レンジは遠距離寄りの中距離型です!」

「サポート職員の東堂歩。基本的には時音ちゃんの戦闘面でのサポート。まあ、この子の付属品とでも思ってくれや」


 全員、内容はほぼ同じ。多少の差はあるが、自己紹介としては簡潔に済ました方だろう。

 なんでかって言うと、それぞれの名前とザックリとした強さ、あとは最低限のできることだけ把握できれば、もうそれで問題ないからだ。

 だって戦姫って、基本的にスタンドプレーなんだもん。イクリプスが湧く時って、討ち漏らしがないようバラけて配置されたりするから、マジで個人戦闘しかしない。よほどの大物でも出ないかぎり、共闘なんか起こらないという。

 あと外国への応援って、人手不足で修羅場ってる現地の戦姫に休みを与えるって側面が強いそうで。大抵がそれをふまえてのシフトになるから、あんまり現地の戦姫と交流をする機会がないのだとか。シフトが被っても大量発生中なのでくそ忙しく、雑談が精々だとは先輩の言。

 なので必然的に、こういう時は呼び名に困んなければそれでいい+αぐらいの情報量に構わないそうで。

 逆にガッツリ自己紹介したいのなら、それはそれでご自由にとも言われた。ただ先輩は『無駄な労力』とバッサリ切り捨ててた。


「……なんで男がいるのかと思ったら、そこの新人とやらの世話係ってわけね。そんな異常者のお守りが必要なレベルとか、本当に頼りになるのかしら?」


 おっと。またメスガキが復活したぞ。


「エマ!! そろそろ私も本当に怒るぞ!?」

「だってボス! こいつら明らかにおかしいもん! こんなサイコキラーみたいな奴らと肩を並べろとか、冗談抜きでおっかないじゃない!」


 誰がサイコキラーじゃい。ホラー映画に出てきそうってかこのチミっ子。


「……最初はともかく、もしかしなくても彼女、本気で私たちのこと怖がってません?」

「……否定できない。確かにアレは小さい子供には刺激が強い。私も後輩に毒されすぎたかも。身内ノリは他所では顰蹙を買うもの」

「えー。まっさかぁ……」


 そんなホラー的な意味での怖がられてるとか、流石にないでしょう。


「チミっ子。ちょいといいかい?」

「なによ!? あとアンタはマジで近づくな! 一歩でも近づいたらズドンだからね!?」


 前言撤回。これマジで警戒されてるやつだわ。


「で、なによ?」

「……」

「ちょっと! 早く言いなさいよ!」

「……」

「無言で見つめるんじゃないわよ! 気持ち悪いんだけど!?」

「……」

「な、なんなのよっ……!」


 はい、ここですかさず高速移動。無音かつ視認不可の速度で、チミっ子の真後ろにスタンバイ。

 ついでに変顔、マイフレンドのお墨付きであるアノニマスフェイスも忘れない。


「Hey、Emma……」

「へ? っ、きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!?」


 大絶叫だった。それはもう施設内に轟くレベルの悲鳴だった。

 そりゃビビるよね。いつの間にか後ろに男が、それもアノニマスの仮面みたいな笑みを浮かべた男が立ってて、自分のことを見下ろしてるんだから。

 誰でもビビる。子供とか関係なしにビビる。なんならチミっ子の絶叫具合に、ちょっと申し訳なく思っている俺がいる。


「【ビリー】!! グレネード!」


──まあチミっ子がグレネードランチャー的な兵器を召喚した辺りで、申し訳なさも綺麗に吹き飛んだわけだが。


「吹っ飛べバケモノーー!!」

「ちょっ、おまっ!?」


 頬を引き攣らせる俺に対し、錯乱中のチミっ子は容赦なく引き金を引いた。

 明らかに人に向けていい代物ではない兵器。それも魔力的なエネルギーで発光し、どう考えても対人仕様から大きく逸脱してるであろう擲弾が迫る。


「ばっか野郎……!?」


 効く効かないかで言えば、まあ正直効かないのだけど。前々から何度も言ってるが、こういう時に犠牲になるのは服なんよ。

 あと、ここ普通に密室。それも地下の。チミっ子の後ろに回った関係上、背後に誰もいないとはいえ、このままだと大惨事は必至だろう。もしかしたら、この部屋のメンバーは大丈夫なのかもしれないが、射線上に部屋や通路が存在している可能性もある。

 ということで対処は絶対。悪ふざけで人死にが出たら、流石に全方位に申し訳ない。


「よっ……!」


 迫る擲弾をキャッチし、そのままギュッと握り潰す。念のため両手で。こうしてエネルギーが炸裂する前に手で包んでしまえば、それでもう終いだ。

 どんなに甚大な威力が籠っていても、掌の外に出なければないのと同じ。アレだよ。超次元なゴットや無限なおてて的なね? 包んでしまえばよかろうなのだ。


「あっぶないねぇ全く……」


 しゅうぅと手から漏れる白い煙。そうして開けば、弾頭の破片が床に落ちてカラカラと音を立てる。


「嘘……」

「嘘じゃないわい。てかチミっ子、悪ふざけは謝るが、お前はお前でなんてことしてくれやがるんだこの野郎」

「ヒッ……!? ……きゅぅ……」


 待って。文句言ったらチミっ子が気絶したんだけど。


「えぇ……?」


 なんでここで気絶? 力の差を実感して絶望でもしたか……?


「……後輩。今から全力で説教するから、まずその気持ち悪い顔をヤメロ」


 あ。そういやアノニマスフェイスのまんまだったわ。勝ち目のないバケモノ認定で、チミっ子の気絶もやむなしですねコレ。


「──正座。早く。ハリー!」

「あ、はい」




ーーー

あとがき

書籍化作業+カクコン用の新作を準備+液タブでのお絵描きで最近忙しいです。なんか変なの入ってる? きのせいです。

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