第86話 やべぇ奴とアクの強い奴ら その一
《side東堂歩》
バージニア州。この州がアメリカ国内でどれだけ重要な地なのかは、外国の事情に疎い典型的なジャパニーズな俺ですら理解できる。
なにせかの有名な施設、歴史的なテロの標的にもなったアメリカ国防総省、通称ペンタゴンが存在する地なのだ。
実際の各地域の力関係というか、アメリカ国内における序列とかは知らんのだけど、印象として『多分重要』と思えるぐらいの州じゃねぇかなと。
「──ちょっとイザベラ! アンタなに私のこと盾にしてんのよ!? 鬱陶しいし腹立つから、さっさと離れなさい!」
「ヒッ!? ご、ごごご、ごめんねエマ! で、でも知らない人が、ボスの後ろに……!!」
「アンタそれヴァチカンの連中にもやってたじゃないの! いい加減にしろこのコミュ障が!!」
「ひぃっ!?」
……そんな場所を担当する戦姫が二人って時点で相当アレなんだが、それ以上に第一印象がクッソ濃ゆいのなんなんだろうね。
「……なあボスさんや」
「なんだい歩?」
「精鋭?」
「ああ、精鋭だとも。事実、バージニアの平和は彼女たち二人によって守られている。これを精鋭と言わずしてなんと言う?」
「そっかー」
それを言われると頷くしかないわな。明確な実績が存在しているのなら、外様としてはなにも言えん。
恐らく合法ではないガチなタイプのロリ……もといチミっ子と、コミュ障を通り越し対人恐怖症の領域に足を突っ込んでいるであろう根暗メガネだとしても、この二人は精鋭なんだろう。
「はい二人とも。元気が有り余ってるのは結構だが、私の方に注目してくれ。我々を助けるために、はるばる海を渡って駆けつけてくれた同盟国のヒーローたちにご挨拶だ」
「……ヒーロー、ねぇ。そのわりには、全員パッとしないというか、なんか頼りなさそうなんだけど。ボス、そいつら足でまといの間違いだったりしない?」
「こらエマ! いきなりなんてことを言うんだ!」
……ほう? 挨拶の代わりにチミっ子がガン飛ばしてきたぞ。
「ねえ二人とも。なんか助けられる側の戦姫が思ってた以上に敵対的なんだけど、こういう時ってサクッと『ワカラセル』方がいいのかな?」
「……なんでワカラセ?」
「いや明らかにメスガキじゃん、あのチミっ子」
生意気なメスガキって分からせるものじゃない? いやエロい意味ではなく。シチュエーション的には、嬉々として煽ってる途中でビンタされて『……え?』ってなるやつ。
「ちょっと! 誰がガキよ! 聞こえてるのよクソナード!」
「……」
「歩さん……? ちょっと落ち着きましょう? 確かに失礼な態度ですけど、まだ子供ですし……」
「そうだよ後輩。他国の戦姫に重傷を負わせたら、流石に大問題になる。あと私たちの仕事も増える」
「人がちょっと無言になっただけで、ガチで宥めにかかってくるの普通に失礼では?」
別になんもする気ないから。ただクソナードって呼ばれたことで、『次の新刊っていつだっけなぁ……』って考えてただけだから。
「あのね二人とも。ワイ、わりとマジで子供には優しい方だったりするのよ?」
「信用できない」
「先輩にも優しくしてるじゃないですか」
「どういう意味だ返答次第ではどうなるか覚悟はできているんだろうな後輩」
「早口で物申してるところ悪いんですが、そういうことです」
「──死ね」
マジカルなワイヤーで首をキュってされた。なお爪で軽く引っ掻いたら切れた。
「チッ。分かってはいたけど効かないか……」
「だからって殺意MAXはいかがなものかと」
「どうせ遠慮しても無駄。なら全力で憂さ晴らしするに限る」
「サンドバッグ扱いですかそうですか」
前の大量発生以降、大抵の攻撃は効かないと思われている節がある。遠慮がなくなったのを、仲良くなったと判断するべきか悩みどころ。
「でも実際問題、こうやって殺しにこられても笑って済ませるぐらいには、僕ちん大人しいんですよ? 少なくともチミっ子には」
「……次に私を子供扱いしたら、本気で怒る」
「はいはい」
とりあえず両手を上げて頷いておく。開き直ってガチで殺しにきたのは置いておくとして、これぐらいで済んだあたりやっぱり仲良くなれたと思っておこう。……先輩の方は、かなり強めの諦観が混じっている気がしなくもないけど。
ま、それはそれとして。話題を身内のじゃれ合いから、アメリカさんとの話し合いに戻しましょうか。
「んで、お嬢ちゃんや。初対面の相手をクソナード呼ばわりとか、元気があって大変結構なんだけども。上司から自己紹介しろって命令されて、罵倒の類いが出てくるのはいただけんで? それじゃあ子供呼ばわりも残当ってもんだ」
「……え、いや急にマトモっぽいこと言い出して気持ち悪いんだけど。物騒なじゃれ合いしてるキチガイとか、マジで近寄ってほしくない」
「……」
……。
「歩さんストップ! 気持ちは分かりますが、彼女の言い分もちょっと正論寄りなので落ち着きましょう!?」
「後輩ステイ。これは私にも原因がある。彼女に誤解させたことは謝るから。ゴメンなさい。ね?」
「無言になるだけでこの反応ってのは、本当に遺憾なんですがねぇ!?」
何度も言うけどなにもしないわ。小学生ぐらいのロリの挑発になんか、いちいち目くじらなんか立てないっての。
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