第85話 やべぇ奴とアメリカ組織のあれやこれ

《side東堂歩》



「──ではこれからキミたちと肩を並べることになる仲間、我が支部の戦姫を紹介しよう。ついてきてくれ」


 ボスが直々に紹介をしてくれるということで、案内人がチェンジ。

 先頭を歩きながら、この組織についてのアレコレも説明してくれた。


「我々の組織は、基本的に日本の蝕獣災害対策局と変わらない。違うのは【ヴァルキリー】という名前だけだと思ってくれ」


 HAHAHAと、アメリカンな笑いを間に挟みながらも、ボスは続ける。


「やるべきことも変わらない。バケモノの予兆が観測されたら、その場に駆けつけ待機。そして出現したら殲滅だ。都市部でもなければ遠慮もいらん。なにせステイツは広いからね」

「つまりサーチ&デストロイ?」

「その通りだ歩。サーチ&デストロイ。サーチ&デストロイさ。なに心配するな。後始末は我々が請け負う。キミたちは存分に暴れてくれたまえ」


 ほー?


「……特に理由もなく【グラララ】とか撃っていいと思う?」

「歩さん。それ他国をノリで爆撃するのと大差ないです」

「ボス、あまり変なこと言わないで。うち後輩は冗談だと理解した上で真に受けるから。そっちの仕事が増えるよ」

「……ほどほどで頼むよ、歩」


 ちぇー。


「んんっ。話を戻すが、基本的にキミたちのやることは日本と変わらない。だが同時に、日本とは異なる点が二つある」

「というと?」

「一つ目はここがステイツであるということ。日本で暮らすキミたちにとって、あらゆることがとても新鮮に移るだろう。あまり多くはないが、休暇もちゃんと用意する。その時は是非、観光など楽しんでくれ」

「なる、ほど?」


 これはアメリカンジョークというやつか? それとも『環境、文化の違いがあるから気をつけろ』と、シャレオツな言い回しで伝えてくれてるのかな? ……どっちでもいっかぁ。


「二つ目。これは伝えるのがとても心苦しいのだけど、戦姫の数が違う。具体的に言うと、バージニア支部の戦姫は二人しかいない」

「「「えっ!?」」」


 待って。ちょっと予想外だったから声出たんだけど。え、二人? ここの戦姫って二人しかいないの!?


「ふ、二人? そんなに少ないんですか……?」

「バージニア州の支部が? ペンタゴンもあるような州の支部なのに、戦姫は二人?」


 時音ちゃんと先輩も目を丸くしている。やっぱりちゃんと知識のある人間からしても、この人数は衝撃的らしい。

 てか個人的に驚きなんだけど、ここってペンタゴンあるの? アメリカ国防総省あるの? アメリカの地理とかややこしくて知らなかったけど、この州ってゴリッゴリの重要地域じゃねぇか。


「……ねぇ先輩。先輩とセカンドポンが他所の国に行ってた時も、うちの支部って三人は戦姫いたよね?」

「……うん。それでシフト組んで回してた」

「でもあれ、交通網が張り巡らされてる+担当地域がそこまで大きくない+平時だったから、平和に回ってただけですよ。……今のこの支部とは対極の状況です」


 だよね? 明らかに回んないよね。日本の大量発生ですら超てんやわんやしてたのに。どの支部にも四人以上の戦姫がいてなお修羅場ってたのに、二人とかどう回すのよ。


「HAHAHA。日本は羨ましいな。応援を出してなお、それだけの戦力が残るのか。……いや本当に羨ましいな」


 声音がガチなんだよなぁ……。


「まあお察しの通り、我が支部は平時ですらギリギリだ。昨日までは所属戦姫二人と、他支部の応援だったヴァチカンの【聖騎士団】を融通してもらってどうにか誤魔化してた」


 つまり俺たちが来る直前で、その又貸しされてた人たちは帰ったと。……待ってヴァチカン?


「聖騎士団? え、なにテンプル騎士団でもいたの?」

「……歩さん。ヴァチカンの聖騎士団を『テンプル騎士団』と間違えるのは、絶対にやっちゃダメなやつです」

「テンプル騎士団は、はるか昔に教皇庁から正式に異端裁判で解体されてる。つまり教皇庁直属の組織を異端者の同類と呼ぶに等しい。過激派相手だと殺されても文句は言えない」

「んなこと言っても、その当人たちが教義的にアウトな術士じゃん」

「「……」」


 僕知ってるよ。あの連中、表はともかく裏ではクソ胡散臭いって。当時の被害者と接点もあるから、いろいろ知ってるんだ!


「……後輩。どこでそれ聞いた? 育ちに関しては一般人って聞いてる。ならそんな危ない話題を吹き込んだ人間がいるはず。誰? 環?」


 問答無用でアクダマが名指しされてて草なんだけど。やっぱりこういう時、日頃の行いって出るよな。


「聞くもなにも。大前提として神様ってとっくに消えてるわけで。神の奇跡の供給元がないのなら、やってることの大半は自力ってことですしおすし。ならそれ異端とされる魔術の類いじゃんって」

「そうでした……! 歩さん、知識がないだけでこういう察しはいいんでした!」

「……厄介な」


 やっぱり日頃の行いって大事よね。こういう時、それっぽいこと言えばあっさり信じてくれるんだから。本当はテロリスト(ソフィア)からの提供でございます。


「後輩。世の中にはツッコミを入れてはいけない『建前』ってものがある」

「その辺りに触れたら、ヴァチカン側と衝突不可避なので絶対に止めてくださいね? 歩さんはピンとこないと思いますけど、あそこは本当に喧嘩売ってはいけない組織なんで」

「あそこは歴史の勝者の集団。最高練度の術士たちが犇めく、世界一位のレリック所有国。そして宗教という御旗のもとに、新時代の存在である戦姫と、歴史ある術士たちが共存関係にある稀有な国」


 ついでに言うと、世界を滅ぼせるレベルのクソ野郎という爆弾の隠されている国でもある。……こう考えると強すぎて草やの。


「だから余計なことは言うな。後輩は大丈夫でも、私たちが大丈夫じゃない」

「歩さんがレリックホルダー程度に負けるとは思いませんが、むしろ余裕で勝つだろうからこそ恐ろしいんですよね。……もし偶然顔を合わせても、不用意な発言は絶対止めてくださいね?」

「りょっか」


 その内、問答無用の殴り込みをかける予定なのは内緒である。いやほら、世界平和のための爆弾処理だから。神様のお墨付きもあるし、忠実な神の僕の方々なら許してくれるって。


「……コホン。失礼ボス。こっちの問題児のせいで話が逸れた。だが許してほしい。後輩は素人に毛が生えた程度で、こっちの世界の事情に疎い」

「いや、構わないよノア。少しばかり恐ろしい、神をも恐れぬ台詞が多々あったとはいえ、聞いていて楽しい内容でもあった。それぐらいの敢闘精神があるのなら、頼もしいとさえ思う。……もちろん、他所とのトラブルは御免だがね?」


 つまり大人しくしててくれと。いやまあ、ヴァチカン勢がいないなら大人しくもクソもないんだけどさ。


「で、話を戻すが。支部に所属する戦姫が少ないのは、ちょっとした理由がある」

「理由? 人手不足の他になにかあると?」

「そうだ。悲しいことに人手不足は大前提なんだが、それでも二人でならどうにか回せる。上の人間はそう判断しているというわけだ。つまるところ、この支部の戦姫はそれができるぐらいには『特別』ってことさ」


 そう言いながら、ボスがある扉の前で立ち止まった。


「ま、その辺りは本人たちも交えて説明した方が早いだろう。ちょうど到着したからね。──では紹介しよう。彼女たちが我が支部が誇る精鋭たちだ!」

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