第84話 やべぇ奴とボス
《side東堂歩》
言葉にできないほどに『らしい』人に連れられ、これまた『らしい』黒塗りの高級車に乗って移動。
俺たちが降り立ったのはバージニア州らしいのだけど、アメリカの地理など全く分からないので、どのような道のりで移動したのかは不明。
ただ案内人のエージェントの説明を耳を傾けていると、いつの間にか目的地、日本の対策局に当たる組織に到着していた。
なお、組織は日本と同様に、イクリプス対策で地下深くにある模様。
「ではこちらに。ボスが首を長くして待っている」
うーん。このアメリカンな雰囲気よ。ボスって日本じゃ中々耳にしない言葉よな。翻訳アイテムの効果で大半が日本語(和製英語も含む)にしか聞こえないけど。
それでも先輩の言葉通り、意識を集中すれば英語もちゃんと聞こえてくるのだから凄い。そして二重に聞こえて地味に不愉快。やめていいかな?
「ボス。ジャパンのヒーローを連れてきたぞ」
『OK。入ってくれたまえ』
日本でよくない? ……いやバベルのせいか。
「……これ、なんか周りの人間がトゥギャザーな話し方をしているようで嫌なんだけど」
「歩さん。バベルの翻訳は本人のポキャブラリーや、会話感覚に依存してるんです……」
「ふざけて聞こえるのなら、それは完全に後輩のせい」
「前言撤回。ハリウッド映画みたいな会話に、耳が慣れてないだけでした」
ということで、なにごとも無かったかのような表情でドアを潜る。先輩からジト目を向けられている気もするが、多分そんなことはない。
「やあ! キミたちが遠路はるばる、私たちを救いにきてくれたヒーローか! 初めまして、私はジェームズだ。Nice to meet you」
バベルさんやっぱり壊れてない? ……あ、はい。集中するので蹴らんといてください先輩。
「気軽にボスと呼んでくれ。他の者もそう呼んでいるからね」
「初めましてボス。私は日暮ノア。この中の代表と思ってほしい」
「初めまして。小森時音です! 新人ですが、お力になれるよう精一杯努力させていただきます!」
「ああ、よろしく頼む。ノア、【アリアドネ】と名高いキミが来てくれるとは思わなかった。ジャパンには改めて感謝の言葉を伝えておこう。そして時音。そんなに畏まる必要はない。我々からすれば、戦力となる者が来てくれただけで感涙ものだ」
先輩、【アリアドネ】なんて二つ名あるのか。ちょっと草なんだけど。
それはそれとして、ボスがチャラいなぁ。結構な年齢だろうに、それを感じさせない軽さがある。ダンディではないんだけど、イケオジ的な雰囲気は凄い漂ってる。……うちの小太りの支部長とは偉い違いだ。
「──それでそっちの少年は? 見たところサポート人員のようだが」
おっと。美中年と中年の差に思いを馳せていたら、俺の番が回ってきたらしい。
「お察しの通り、二人のサポート職員として同行してます。東堂歩です。新人なので、時音ちゃんともども勉強してこいと送り出されてきました。まあ、添え物のパセリとでも思っといてください」
「なるほど。言葉は悪いが、見習い兼雑用係という認識で構わないかな?」
「ボス。騙されちゃ駄目。なんか謙遜みたいなこと言ってるけど、雑用で楽しようとしてるだけ。むしろ最前線に送るべき戦力」
チッ。
「……そうなのか? こう言ってはなんだが、そのようには見えないのだが。普通の少年だ。術士特有の雰囲気もないぞ?」
「在野からのヘッドハント。だから育ち自体は一般人。──でも強い。めちゃくちゃ強い。完全なフィジカルモンスターだからイクリプスを仕留めることはできないけど、それ以外は大抵できると思っていい。上級ともやりあえる」
「なんと……!」
先輩の補足を受け、ボスが驚いた表情でこっちを見る。
向けられる視線の質も変わった。さっきは『え、戦力にもならない足でまといとかいらないんだけど。そんな余裕ないんだけど。……でも、友好的に接しないといけないしなぁ』みたいな感じだった。
が、今は違う。普通に戦力としてカウントされたからか、瞳に『歓迎』の二文字が浮かんでいる。
「基本的には、まだ危なっかしいところがある時音とセット運用してほしい。彼が敵の足留めをして、時音が仕留める形。でも状況によっては、彼を他の戦姫につけても構わない。本当に余裕がない場合は、単騎で出すのも問題ない。仕留められないだけで戦えはする。相手がS越えだろうが時間稼ぎはできる」
「それほどなのか!!」
「うん。その代わり、性格と言動にかなりの難がある。今見た通り、応援の癖してサラッとフェードアウトしようとしたりする。致命的なクズではないけど、ナチュラルに全方位に喧嘩売ったりする。天性のトラブルメーカーだから気をつけて」
「ふむ……」
酷いけどなにも言い返せねぇなー、と思っていたら。なにやらボスが思案してる模様。
これもしかして、問題児は困るってことで追い返される?
「……ヘイ歩。申し訳ないが、いくつか質問を構わないかね?」
「なんでせう?」
「初対面の人間に、いきなり悪態を吐かれたらどうする?」
「煽り返しますね」
「手を出してきたら?」
「殴り返しますね」
「恩を受けたら?」
「まあ、返すかなぁ……。状況と相手次第ですが」
「不義理を働かれたら?」
「状況次第では〆る」
「気に入らない相手は排除したいかい?」
「状況によるとしか。絡んでこなければ、基本は無視しますがね」
「なるほど。結構。質問は以上だ」
……今の質問でなにか分かることあったか?
「キミはアレだな。犯罪を犯していないアウトロー寄りなんだな。掟は守るタイプのギャングと言えば分かりやすいか。付き合い方さえ間違えなければ、愉快な人間なのではという印象を受ける」
「ほう……?」
「その程度ならば問題ない。生憎と、うちのメンバーも、というか戦姫も中々に曲者揃いでね。キミのそれも許容範囲だと判断する」
はえー。……てか、ここの戦姫も曲者なのか。やっぱり力があると、人間ってはっちゃけるもんなのかね?
「もちろんアレだ。個々の相性もあるから、相応にトラブルが発生することもあるだろう。だが、少なくとも私はキミを歓迎する」
そう言いながら、ボスが手を差し出してくる。空気を読んで同じように手をだしておく。──ガシリと掴まれた。
「戦闘面はもちろん、それ以外でも要望があれば是非とも言ってくれ。応援に来てもらってる身だ。できる限り応えようとも」
「はあ……」
「ということで、よろしく頼むよ歩。戦力として期待している」
「うっす」
……なんだろなぁ。握手の強さといい、『逃がさねぇ』って副音声がヒシヒシと聞こえてくるんだけど。
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