第83話 やべぇ奴、アメリカへ
《side東堂歩》
アミダという適当極まりない選定方の結果、引率役は先輩となった。二連続となって割とガチな凹み方をしてたので、やっぱり出荷の類いなんだなと再確認。
それはそれとして、うちの支部のトップ戦姫らしい先輩を派遣するのは、戦力的に大丈夫なんだろうかとも思った。俺と先輩がいなくなるとか、戦力ダダ下がりじゃない? と。
まあ、神崎さんから問題ないと言われたけど。国外派遣するほどの余裕がないだけで、国内なら戦姫の融通はある程度効くからと。あと、俺は完全なイレギュラーな戦力なので、そういう諸々の想定には元からカウントされていないらしい。
扱いが完全に秘密兵器だった。人手不足という大人の事情で常用されてるけど。
「……到着しちゃったね、アメリカ」
「しちゃいましたね」
「展開が超特急すぎるんよ……」
──そんなこんなでアメリカ到着。同盟国の非常事態ということで、決定してからが早いのなんの。翌日には飛行機に叩き込まれたからね。
お陰で服とサイフとケータイぐらいしか準備できんかったわ。……パスポート? 内容が裏社会案件なのでゴリッゴリの偽造もんだよ。アメリカからは認可受けてるっぽいけど。
「いやー、マジで早いのな。こんな弾丸ツアーみたいことやらされるとは思わんかった」
「うん。応援のそういうところも嫌」
「その癖、飛行機は長いし」
「物理的な距離はしょうがないと思いますよ……?」
いや、俺の場合は生身で移動した方が速いし。なんなら花園に頼んで転移させてもらったりとかできるし。
外部が絡むと、そういう勝手ができないのが辛いところよね。花園に頼むのは論外として。
「それでこの後は? なんかザ・エージェントなオッサンにウェイトって言われはしたけど」
「迎えがくる。だから下手に動かない。あと、後輩はコレ」
「なんです?」
先輩からポイっとなにかを投げ渡された。……ネックレス?
「プレゼントです?」
「なわけない。俗に言うマジックアイテム。込められてるのは【言語統一】。英語、分からないでしょ?」
あー。つまりファンタジー的な翻訳機と。てっきり通訳の人がいるのか、パッションでなんとかすると思ってたけど。
こんなネックレス一つで異文化コミュニケーションが取れるとか。なんとまぁ便利なこって。
「ヘッドが塔のデザインなのは、つまりそういう?」
「そ。バベルの塔がモチーフ。名前もまんま【バベル】。地味に貴重品だから壊さないように。あと、あくまで言語限定。文字は対象外」
「ほー。……それはそれとして、逸話的にちと不穏ではコレ。雷とか落ちてきません?」
「どうせ避けるでしょ」
つまり降ってくるんです?
「てか、俺だけなんすね。先輩や時音ちゃんのは? まさか英語ペラペラだったり?」
「うん。英語は通訳、翻訳で食べていけるぐらいには。他にも六カ国語はいける」
「私はノアさんほどではないですが、日常会話だけならなんとかって感じです」
そりゃまたハイスペックというか……。いや先輩だけなんかレベチでは?
「神秘に適性があると、その辺りの感覚が自然と鋭くなる。言霊なんてものがあるぐらいには、言語というのは神秘と密接。だから才能ある人間ほどマルチリンガルの気がある」
「はえー」
「あとは単純に、言語関係の術って難易度的には基礎寄りなんですよね。なので早い段階から使えて、多用しているうちに自然と頭に刻まれちゃうんです」
才能+リスニング効果でストレスフリーの学習を、ってか? なんか羨ましいなそれ。
「俺もコレ着けてれば、英語とか喋れるようになるんかな?」
「……微妙? 後輩、トンデモなのは確かだけど、私たちとは絶対にモノが違うし」
「歩さんが術士とかなら、応援期間中にそれを着けて生活してれば、普通に日常会話ぐらいなら問題なくなるはずなんですけど……」
才能の部分が不明なせいで断言はできんと。やっぱり世の中って世知辛いねぇ
「ちなみに歩さん、学校の英語のテストとかどんな感じですか? 特にリスニング系」
「毎回カンニングしてるから知らん。授業は気配消してスマホ弄ってる」
「参考にならないですね……」
「あ、でも、外人と話したことは何度かあるぞ。ジェスチャー、視線の動き、脈拍とかを読み取って、なんとなく会話は成立した」
「参考にならない」
そっかー。
「それにしても意外。後輩、そういうの考えるんだ」
「喋れた方が便利じゃないすか。道具頼りだと、壊れた時に困りますしねー」
英語ぐらいは、どうにか喋れるようになりたいよねー。やっぱり話者数が多いとなれば、それだけ活用する機会も多いだろうから。
花園関係で活動範囲がワールドワイドになるかもだし。それでいて英語が話せれば、大抵の国でもなんとかなるだろうし。
「ボディランゲージでも、死ぬ気でやればなんとかなるとは思っていますが、それはそれで面倒じゃないですか」
「確かにそう」
「意見としては間違ってないかと。……というかむしろ、ボディランゲージに対する信頼度が高すぎる気もします」
「ボディでのランゲージってとっても便利じゃん?」
「それ、ボディのあとに(ブロー)って続いてますよね?」
「相手は選ぶよ」
「否定はしないんですね」
暴力は原初の言語だからね。誰であろうと通じるものさ。特に言葉は通じても話が通じない、なんて相手にもしっかり効くのが高ポイント。
「まあ、後輩の暴力信仰は置いといて。心意気はいいこと。それは間違ってない」
「俺の信仰先を間違えられているんですが」
なんだ暴力信仰って。物騒すぎるだろそれ。ただ殴ってお願いすれば、大抵の人はそれを飲んでくれるよねって思ってるだけなんですが。……じゃあ間違ってないかな?
「ともかくアドバイス。【バベル】を着けた状態で、しっかり耳に集中すればいい。効果で自分の母国語に変換されるけど、それはあくまで脳内。聞こうとすれば英語の方も聞きとれる」
「なるほど」
「例え才能がなかろうとも、継続すればある程度は身になるもの。だから頑張れ後輩」
「うっす」
まさか先輩から激励をいただけるとは思わんかったわ。それならちょっと頑張ろうかなぁ。
「──失礼する。車の用意ができたので、こちらについてきてほしい」
──おやジャストタイミング。それじゃ、いっちょリスニングに励むとしますかぁ。
ーーーー
あとがき
ちょっとした宣伝をさせていただきます。
実は私のもう一つの作品である【怠惰の王子は祖国を捨てる】が、書籍化となりました。
……それについては、またその時がきたらしっかり宣伝させていただくので、一旦脇に置いときまして。
実は新たに二の矢を確保したいと思い、お仕事コン用の新作を新たに投稿しました。
『キノコ狩りのフェアリーリング〜マジックなマッシュルームをお求めですか?』
異世界を舞台に、現地生まれの少女を主人公とした異世界ファンタジーです。全体的には日常コメディもので、恋愛要素を混ざった作品にする予定でさので、是非とも読んでほしいなと。
ということで、よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます