傘の中身
20年近く前、私が小学5年生の頃の話。
当時、飼育委員だった私は、学校の校庭で飼っているウサギの世話をするため、夏休みも登校していた。私以外にも、同じクラスの女子2人が担当だった。
ウサギは常に脱走の機会を狙っており、飼育小屋のドアを開けると凄まじいスピードで飛び出てくる。幼い私たちではウサギのスピードに追いつけず、よく脱走を許していた。
この日も、例によってウサギは脱走。私が捕まえてる間に、女子2人に小屋の掃除をお願いした。
ウサギは小屋と校舎の間にある細い道がお気に入りで、必ずそこに逃げ込む。子供ならなんとか入れるくらいの狭い空間だ。
ジメジメした中を進み、無事にウサギを捕獲して戻ろうとした時、奥の方に黄色い傘が立てかけてあるのに気づいた。誰かの落とし物かと思い、用務員さんに届けようと、持って戻ることにした。
引き続き掃除をしていると、雨が降ってきた。校舎に入ろうかと考えたが、もう少しで掃除は終わりそうだった。私は、とりあえずさっきの傘を差して雨をしのごうと考えた。
傘を開くと、頭上からヤスデが100匹くらい降ってきた。最初、雨粒が傘を貫通しているのかと思った。
髪の毛に小さい粒のようなものがポトポトのしかかる。服の上をヤスデが這い、首元、袖からお腹や背中に入り込む。足元に生きているヤスデ、死んでいるヤスデが大量に散らばる。
今すぐにでも叫び声を上げたい気分だったが、女子の前だ。私は痩せ我慢をし、余裕そうな表情で傘をたたむと、何事もなかったかのようにウサギ小屋の掃除を続けた。
女子2人は叫び声を上げ、私から5mくらい距離をとっていた。
体中をモゾモゾ這うヤスデを感じながら、私は黙ってウザギの小屋を掃除した。雨でずぶ濡れになる方がまだ心地いいくらいだった。
掃除を終え、女子にさよならの挨拶をした私は、全速力で校庭を出て、体中のヤスデを払った。雨で湿った道路の上に、数十匹のヤスデが落ちる。百本はあるであろう足を動かしながら、様々な方向へと散っていく。
私はすぐに家へ帰り、シャワーを浴びた。頭を洗ったら、まだ髪にヤスデが絡まっていたようで、5〜6匹くらいが排水溝に流れていった。
あの日以来、落ちている傘は無闇に拾わないようにしている。
虫怖-ムシコワ- ジロギン @jirogin
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