『危険な香りのする男』からしか得られない栄養素

 刑務所の面会室で久々に顔を合わせるふたり、暴力団の若頭と元弁護士の男の、これまでとこれからのお話。
 シンプルながらも非常に濃厚な、現代ものの掌編です。なんでしょうかこのとてつもない色香は……ヤバい男の放つ魔力のような魅力と、それに狂わされてしまったもうひとりの男の、容易には言い換えの効かない特別な関係性と、そこに伴う感情の物語。
 彼らの人物造形というか、その魅力の書き表し方のスマートさがもう本当にすごい。作中の出来事自体は至ってシンプルで、ただ密室でふたりが面会するというもの。しかしその最中にこれまでの来し方を回想のように振り返って、しかしそれだけで十全に語られる彼らの関係性。そして、そこから想像させられてしまう、互いが互いに抱く思いの強さと大きさ。
 何かのっぴきならない因縁のようなものを、ただ書くのではなく関係性と感情の先に〝読ませて〟くれる、その読書体験には非常にたまらないものがありました。なにこれ気持ちいい……魅力の部分がするする入ってくる……。
 なんだか理屈っぽい感想を書きましたけど、もう単純に色香がヤバいです。酔えますし浸れます。単純に魅力的なのはやっぱり岩角さんですけど、物語の登場人物としては宍戸さんが好き! たまらんふたりのお話でした。