【4分で怪談】早く開封してください 開ければ見つけられます
松本タケル
本当にあなたが注文したものですか?
主人公の
彼の妻はパートで昼間はいない。中学生の子供たちも学校があり家にいない。その結果、彼自身が誰よりも家にいる状態である。
テレワークが増加して以降、彼は平日に夕食をつくるようになった。もともと、料理は嫌いではなく、苦にはならなかった。
17時30分の定時まで家で仕事をしたあと、徒歩5分ほどのところにあるスーパーに買い物に行くのが日課となっている。子供たちに、「今日の夜ご飯、何?」と聞かれるまでになったのは少々の自慢であった。
その日の夕方も達也はスーパーにいた。近所の顔見知りの奥さんたちに会うこともあった。そういう感じが苦手な人もいるが、達也は何ともなかった。
むしろ、スーパーでの買い物は好きだった。事前に調べたレシピに合わせて材料を買う、特売があったらメニューを変更するなどは彼にとって楽しい作業だった。
「3024円です」
レジで告げられクレジットカードで支払いを済ませた。そして、エコバックに買った品物を詰め込んでいた。
「ん?」
「何じゃこりゃ?」
達也は首をかしげた。
『T.T.様へ 荷物を送りました S.S.より』
ボールペンで走り書きのように書いてある。その他の『お客様の声』は、「XXの商品を置いてください」とか、「店員の態度が悪い」みたいな内容だ。しかし、その紙だけ異なっていた。
「T.T.って・・・・・・オレのイニシャルじゃん。偶然か?」
達也はたいして気にせずに店を出て家路についた。
彼の家は一軒家だ。郊外にある閑静な住宅街。妻はパート、子供も部活で帰宅していない時間だ。
「ん?」
玄関口に段ボール箱が置いてあった。
「ネット通販で何か買ったっけ?」
それほど大きくない段ボール箱。持ち上げると軽い。
貼られている帳票を見た。
「送り主・・・・・・S.S.?」
大手の運送会社からの配送だ。最近、普及してきた『置き配』というやつだ。配送時に直接、手渡さずに玄関口に置いてもよいことになっている。
そこで、達也はハッと思い出した。
「さっきのお客様の声・・・・・」
とりあえず荷物を家に持って入った。受取人の住所・氏名の記載はあるが差出人の住所はない。差出人氏名に『S.S.』とだけ記載がある。こんな記載で大手の運送業者が受理するのが不思議だった。
達也は箱を開ける気にならなかった。
振ってみるとカランカランと音がした。漆器に乾いた何かが当たるような音だった。
「お客様の声を貼った奴のイタズラか? 明日、スーパーに行って誰が貼ったのか聞いてやろう」
達也はそう考えて、箱を開封せずにクローゼットにしまった。
晩御飯を作り、帰宅した妻子と食べているうちに達也は箱のことを忘れていった。
翌日。
達也はその日も夕食の当番だった。前日と同様、スーパーで買い物。
荷物を詰めながら、
「そういえば、昨日、不思議な事があったっけ?」
と回想しつつ掲示板に目をやった。
「!?」
達也はその場で硬直した。
『T.T.様へ 早く開封してください 開ければ見つけられます S.S.より』
冗談にしてはやりすぎだ。
しかも、赤色で書かれている。文字からインクが不気味に垂れていた。
「こんな紙を貼るスーパーもどうかしている」
怖さはあったが、スーパーへの怒りも湧いてきた。
「店長、呼んでください!」
達也は大声で近くにいたパート店員をつかまて店長を呼ばせた。
「この『お客様の声』を誰が貼ったか教えてください」
達也は昨日からの事情を説明した。
店長はその場を離れてパートの人達に確認をしに行った。
「すみません。誰が貼ったか分からないですね。『貼らせてくれ』と突然来た場合、パート店員がそのまま貼ってしまう場合もあるんです。本日、出勤していない者が対応したのかもしれません」
達也は平謝りする店長にこれ以上言っても無駄と思った。
「すみません。大声出して。分かったら教えてください。また明日、来ますので」
「紙、お持ちになられます?」
達也は虫酸が走る思いをしながら紙を受け取った。手がかりになると考えたからだ。
スーパーの前でスマートフォンを出して確認した。パート終わりの妻から時折、「これ買ってきて」みたいなメッセージが入ることがあったからだ。
「お、メッセージが入っている。買い物中に見れば良かった」
達也はメッセージを開いた。妻からだ。
―――
地域の防犯連絡で回ってきたんだけど、
―――
「ただ事じゃないな。周囲を見ながら帰ろう。早く見つかるといいけど。あと、帰ったらあの箱を開けてみよう。誰が送ったか手がかりがあるかもしれないし」
達也はそうつぶやいて家路に着いた。
歩き出した達也のポケットから『お客様の声』がはらりと落ちた。
『T.T.様へ 早く開封してください 開ければ見つけられます S.S.より』
【4分で怪談】早く開封してください 開ければ見つけられます 松本タケル @matu3980454
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