独り


カラン。

手から離れて今日の役目を終えたグラスから、氷が奏でる良い音が鳴り、耳を掠めた。

その音を最後に静かになった部屋の中は、息遣いが聞こえるほどの静寂で、私の中に溢れる虚無を引き立たせているようにも感じる。


こんな夜は、幸せだったあの頃を思い出してしまう。


私と、彼と、そしてお互いの大切な人。

4人で朝まで語り明かして、眠い目をこすりながら大学へ足を進めた当たり前だったあの日々。

3%にふにゃふにゃ笑顔で未来を語った私は今や、9%にしかめっ面で過去を羨む寂しい人に変わってしまった。

だけど変わってしまったのは、私だけではない。

愛おしそうに私の名前を呼んだあの人も、今は名前すら呼んではくれない。

私が悪いんだ。それは、分かってる。

私という存在を初めて認めてくれたあの人にわがままを言いすぎたんだ。

少し嫌なことがあれば連絡して、自分の思いどうりにならなければ拗ねて。あの人がそんなところも好きだと言ったから、甘えすぎていたんだ。

そう考えて、自分に言い訳してどうするんだよ、なんて望みもしないため息が零れる。


それから私は独りで生きていくことにした。


髪は切って染め直して、煙を纏い、ピアスをたくさん開けて、真っ黒なネイルをして、高いヒールを履くようになった。


私は、強い。独りでも生きていけるんだ。

そうやって自分に言い聞かせていた。


だけど本当は分かってた。そんなことをしても私が強くなれるわけが無いと。

あの人と一緒にいた頃のわがままな私が本来の私なんだと気づいてた。


私は、弱い。どうしようもなく。

誰かに救ってもらいたい。


救いがないのならば、


……ううん。今はやめよう。


こんなにも暗く考え込んでしまう時は、彼に連絡をしたくなる。

「ねぇ、寂しい」

……なんて、送れるはずもない。

こういう所が嫌になったって、あの人に言われたのに。

今度は違う人、彼にも同じことをするわけにはいかない。


今日はもう、1本だけにして眠ってしまおう。

何度目かも分からないため息を零し、立ち上がる。


役目を終えたはずのグラスは、少しだけ水で満たされていた。

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