どこで間違えてしまったのだろうか

84

お揃い

「お疲れ様です」

「すげー事務的」

一糸まとわぬ姿でベッドに並ぶ二つの影。

「はは、ごめんって」

そう言って彼は私の頭を優しく撫でた。

だけどそこに甘い言葉も空気もない。あるのは二人お揃いの虚無だけ。

「なぁ、――。あっ……ごめん」

後処理のために立ち上がった彼からかけられた名前は当然私のものでは無い。

「いーよ、気にしないで」

「本当にごめん。俺、やっぱまだ…」

「しょーがないよ。私も未だにそうだし」

これはお揃いの傷を持ち合わせたお互いを慰めるためだけの時間。

一つ違うのは彼にはまだ希望があるということ。本人には言わないが私はそう思ってる。

「忘れられないんだよ」

「うん、知ってる」

「お前も?」

「まぁね。でも私のは、あー……依存してた私が悪いから」

「ちゃんと自分が悪いこと分かってるんだったらいいじゃん」

「…………そう、ね」

決して肯定などしない彼と一緒にいるのは、否定されることが大嫌いな私にとって苦痛でしかないが、紛れもない事実。

変に肯定されたところで私が悪いという事実は変わらないし、簡単な慰めの言葉で笑顔になれるほど単純な頭はしていない。

エピローグと呼ばれるこの時間に紡がれるのは私たちの間じゃサークルの愚痴か、幸せだった頃の思い出話。

「私、4人で遊んでた頃が1番幸せだったよ」

「うん」

伏せていた目を上げると彼は既に私を家にあげた時と同じ格好をしていた。私も早くしなきゃと身体を起こそうとするが上手く動かない。

「ああ、もうちょっと休んでていいよ」

「ごめん、ありがと」

こういうところ優しいんだよな。この人。

でも彼は重なり合う時、私の顔を見ない。

お世辞にも可愛いとは言えない私。抱きしめて動く彼は、私のことが愛おしくてそうしているのではなく、顔は悪く髪は短い男のような見た目の私を見ないためにそうしているのだろう……とついさっきのことを思い出しながら考える。

「お前さ、髪伸ばさんの?」

「あー……うん。暫くは」

長かった青く染めた髪を切ったのは、あの頃の依存して甘えきっていた私を殺すため。

「長い方が好きだよ、似合ってた」

「……そう?」

それはお前が女の子らしい子としたいってだけでしょ、という本音は心の中に閉まっておくことにした。

「まぁ、じゃ伸ばすかな」

「うん、いいと思う」

それに私はこれでいい。都合のいい女で。

「あ、そろそろ終電だから着替えて出るわ」

「もうそんな時間か」

まだ上手くは動かない身体で無造作に転がっている布を纏う。

「じゃあね」

「おう、気をつけて。またな」

「ありがと、……またね」

上手く笑えているだろうか。

彼の家から出る時、私は絶対に自分からまたねとは言わない。

私は彼を繋ぎ止めておきたい訳じゃない。それに私たちは彼のまたながなければ終わるような関係だから。

外に出た私を待っていたのは静まり返ったどんよりとした夜空。カバンを漁り迷いもなく取り出したそれに火をつける。

自分の姿さえ見えづらい夜道にひとつの朱色と紫煙が揺らめく。

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