それでもいいから


夢を、見たんだ。


深夜。

気がつくと私は土砂降りの雨の中あの人の家の前に立っていた。

トントントンと扉を鳴らすと出てきたのは当然あの人。

「びしょ濡れじゃん。早く入りな」

私を見つめるその眼差しはいつもと違って暖かく少しだけ不思議に思った。

「すぐ帰るから大丈夫」

思考する訳でもなく、私はそう答える。

「お風呂湧いてるから、早く」

言われるがままお風呂に入り、腰掛ける彼の横に並ぶ。変な感覚がしたが、私はそれを受け入れていた。

色んな話を聞いたんだ。私抜きの3人で遊びに行った話とか。仲間外れに少し寂しい気がしたけれど、昔みたいに態度に表すことだけはやめた。

「そうなんだ」

どれだけこの言葉を言ったのか分からない。

だけど、あの頃と同じ幸せを感じていたことは間違いない。



あぁ……これ、夢だ。

ふと気づく。

「お酒貰ってもいい?」

あの人はいいよ、と答えて私に飲みかけの缶チューハイを手渡す。


気づいていたのにも関わらず、私はこの夢の中に居座ることを決めた。

夢でもいいからもう少し、この空間で幸せを感じていたいと強く思ってしまったんだ。




「ねえ、今日泊まって言ってもいい?」



答えはない。




次の瞬間、私の目に映ったのは見慣れた自室の天井だった。


「はは……馬鹿みたい」


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