それでもいいから
夢を、見たんだ。
深夜。
気がつくと私は土砂降りの雨の中あの人の家の前に立っていた。
トントントンと扉を鳴らすと出てきたのは当然あの人。
「びしょ濡れじゃん。早く入りな」
私を見つめるその眼差しはいつもと違って暖かく少しだけ不思議に思った。
「すぐ帰るから大丈夫」
思考する訳でもなく、私はそう答える。
「お風呂湧いてるから、早く」
言われるがままお風呂に入り、腰掛ける彼の横に並ぶ。変な感覚がしたが、私はそれを受け入れていた。
色んな話を聞いたんだ。私抜きの3人で遊びに行った話とか。仲間外れに少し寂しい気がしたけれど、昔みたいに態度に表すことだけはやめた。
「そうなんだ」
どれだけこの言葉を言ったのか分からない。
だけど、あの頃と同じ幸せを感じていたことは間違いない。
あぁ……これ、夢だ。
ふと気づく。
「お酒貰ってもいい?」
あの人はいいよ、と答えて私に飲みかけの缶チューハイを手渡す。
気づいていたのにも関わらず、私はこの夢の中に居座ることを決めた。
夢でもいいからもう少し、この空間で幸せを感じていたいと強く思ってしまったんだ。
「ねえ、今日泊まって言ってもいい?」
答えはない。
次の瞬間、私の目に映ったのは見慣れた自室の天井だった。
「はは……馬鹿みたい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます