最終話


 アルジュナとの戦いから十年が経ち、与えられた領地も街としてだいぶ発展した。


 今では、近い将来ヨルバウム帝国の第二の都市になるのではないかとまで言われている。


 それもこれも妻であるステラのおかげだ。


 開拓の際には風魔法で木々を伐採し、土魔法で硬い地面を耕し、井戸も作って、領民が住む家も土魔法で建ててしまった。


 領民が農業で作った野菜や森で狩ったモンスターの肉で次々とこの世界にはない料理を作り出し、商人や観光客が来るきっかけを作ってくれたのもステラだ。


 六年程前に出産し、一児の母になってからも領地の指揮をとってくれている。


 おかげで僕は五年前に皇帝となったクルトの懐刀としての仕事を出来ている。


 六歳になった僕とステラの愛息アステルは、髪の色は僕に似て金髪で、瞳の色はステラと同じ空色。


 性格は完全にステラに似て中々やんちゃに育っている。


 そんなアステルは、今年から王都シュライゼムの魔法学院に特待生として通っている。


 同じ学年にはセシルとチェルシーの娘セシリアと、ジアスとローナの娘ジーナも居る。


 ジアスとローナは仲が良かったから結婚したのも納得したが、セシルとチェルシーが結婚したのは意外だった。


 アステルの一学年上にはクルトの娘クラネッタも居る。


 クルトは九年前にヨルバウム帝国の公爵令嬢と結婚している。

 現在三児の父だ。


 他の仲間はというと、イルティミナ先生は八年程前に再び放浪の旅に出て今は行方がわからない。


 パラケルトさんは、七年前に不治の病として有名だったグラディム病の特効薬を生み出した。


 これによりガイツァーさんの娘さんは元気になったらしい。


 ヨルファングさんは、バンシール領に孤児院を建てて、世界中を巡り、世界中の孤児を連れてきている。


 ラダンさんとイレーヌさんは結婚し、結婚した後もマドランガ共和国で冒険者生活を続けているらしい。


 ナギさんは、ミズホ国皇族の剣術指南役に抜擢されたと聞いている。


 キルハは世界各地の紛争に傭兵として参加しているみたいだ。

 戦い好きのキルハらしい。


 皆時折手紙をくれるので近況は把握している。


 そういえば近々まだ一席だけ空席になっている十二星王の座を埋める為の闘技大会を王都シュライゼムの闘技場で行う。


 先日あった世界最高議会にて決まった。


 三年前にガイツァーさんが再び十二星王になって残るは一席だけとなったのだが、これ以上空席にしておくのも良くないということで十二星王を決める為の闘技大会が開催される事となった。


 ステラも参加する気満々で魔法の特訓をしている。


 ステラは、森林地帯を魔法で開拓した事により、仮面の大魔導と呼ばれるようになった。


 今のステラの実力なら十二星王になってもおかしくないが、いちゃつく時間が更に減りそうなのでならないでほしい。


 そんなステラは今日もこの世界には存在しない知識を使って、バンシール領の街バンシーに新たな名物料理を作ろうとしている。


 どう見ても前世の記憶を持っているけど、これからも黙って見守るつもりだ。


 今日は仕事もないし、久しぶりにステラとデートでもしよう。



        ◆◆◆



 バンシーの新たな名物料理天ぷらを作りながら思う。


 最近ルートヴィヒとラブラブ出来ていないなと。


 ルートヴィヒもヨルバウム帝国の将軍職についてから何かと忙しいし、私も領地経営で忙しい。


 でもそろそろデートしたい。


 だけどもうすぐ新たな十二星王を決める闘技大会がある。


 それに向けて魔法の訓練をしたほうがいいんじゃないのかと考えていると、ルートヴィヒがやってきた。


 「···あのさ、今日は久しぶりにデートしない?」


 結婚してからもう十年は経っているのに、妻をデートに誘うのに未だに照れているルートヴィヒ。何この夫、可愛い!!


 そんなルートヴィヒからのお誘いをもちろん受けてお出かけの準備をする為に自室へと向かう。


 ヤッフ〜!! これからデートだ!!


 私は魔法の特訓の事など忘れてスキップしながら自室へと入った。



        ◆◆◆



 ――ルートヴィヒとステラの息子アステル視点。



 俺は今シュライゼム魔法学院に通っている。


 六歳で特待生としてこの学院に通えるのは凄いらしく皆が注目している。


 だけど皆、「流石は迅王の息子」「あの魔法の才能は仮面の大魔導譲りだな」「比翼の子なのだから当然だ」と言って、俺自身を評価してくれない。


 俺の父は十二星王の一人で迅王と呼ばれていて更にヨルバウム帝国の将軍の一人だ。


 クルト皇帝陛下の懐刀とも呼ばれているヨルバウム帝国の英雄だ。


 一方母は大賢者イルティミナ·ホルス様の弟子にしてイルティミナ様と同じ全属性の魔法を使える大魔導として有名だ。


 そんな二人は息子の目から見ても仲が良く、ヨルバウム帝国の「比翼」として世界中の人々に知られている。


 そんな有名人の息子だから皆親の名ばかり見る。


 ただ勘違いしないでほしいのは、俺は父と母を嫌っていない。


 むしろ大好きだ。


 あれほど尊敬できる父はいないし、母はお転婆な所があるが、バンシーの街を大きくした功労者だ。


 二人とも偉大な人物だ。


 だからこそ一人のアステルとして認められて二人の横に並び立ちたいと思うのだ。


 だから今日も剣術と魔法の訓練をしたいのに同学年で二歳年上のセシリアとジーナ、それに一学年上で三歳年上のクラネッタ皇女が絡んでくる。


 あぁ何でいつもいつも俺に付きまとうんだ。


 頼むから一人にしてくれよ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妹がどう見ても前世の記憶を持っているんですが〜スラム生まれの天才兄と転生妹の異世界成り上がりライフ〜 立鳥 跡 @tatedori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ