9.やっぱり2階層で不思議な生物を発見しました


 白くて大きなカブのような何かは、ゆらゆらと頭?の葉を揺らして、黒い目のように見える2つの点を明らかにアレンダンに向けて……

「見てる、よなぁ」

 見ている。ただ見ている。


「マンドラゴラは多分こいつだよな。じゃ、こいつが……デコン?」


 ゆらゆら。ゆらゆら。

「デコン……ええと、なんか聞いたことあるぞ」

 デコン、と言葉に出すとジリジリと後ろに下がってアレンダンから距離を取るような動きをするので、おそらくデコンとはこれなのかも……とアレンダンも予想した。

「デコン、デコン……ああ!」

 大きな声を出してしまったせいか、おそらくデコンだろう魔物は、さらにアレンダンからジリジリと離れていく。

「ボルカノの麓の畑で採れる、でかいカブみたいなダイコンとか言うのの仲間……で」

 ミクシが説明してくれた、野菜の名前。ダイコンすら初見だったアレンダンに、捨てるところのない万能野菜だと胸を張ったミクシのことを思い出した。

(ダイコンのことを、ボルカノの方言で言うと……)

「デコン、だ!」

 どうやらデコンと呼ばれているらしい魔物は、アレンダンに攻撃の意思はないらしいので、慌ててマップのメモ書きのところを見直す

(ええと、倒すと野菜を出す……そのまんまじゃねぇか!)

 カブのお化けのようなものたちは、ゆらゆらとそのままアレンダンから離れていく。

「どうしよう。倒すか?」

 なんだかつぶらな目で見つめられる上に、自分から逃げるようにしているものを倒すのは気が引けた。しかし、調査隊である以上、記録のない魔物は調査をする必要がある。


「ええと」


 ゆらゆら。ゆらゆら。

 デコン(仮定)のつぶらな瞳(に見える)と、ゆらゆら揺れる、カブの葉っぱのようなもの。

 ゆらゆら具合は、宿の看板猫イコモチの尻尾に見えてきた。

 アレンダンは猫好きである。割と小動物は嫌いじゃない。むしろ好きだ。

 もちろんここはダンジョンだし、それとこれとは違うのも百も承知。迷いなく戦闘し、倒す自信もある。


「よし。とりあえず、何か危険な秘密を持ってるかもしれないし」


 ジリジリとデコンと目を合わせたまま、距離を保ったまま、3階層……上へ上がる階段に近づく。


 アレンダンは、とりあえずこのカブのような魔物からの戦略的撤退を選択したのだった。




「ああ、デコンね。たまに出るって言う」

 その夜、2階層のマップを仕上げるために、命の水亭の奥の部屋を陣取らせてもらって、聞き込み件食事をしていたアレンダンは、ミクシにカブのような魔物のことを尋ねてみた。

「倒したら野菜が出るとか言われたんだけど……」

「うんうん!普通にボルカノデコンが出てくるんだけど、畑で獲れるのよりだいぶ小さいのしか見たこと無いんだよね〜。まあ、普通に食べれるけど。デコンは冬にしかとれないから、今の季節なら珍しいけどね」

 そう言いながら、そのデコンの保存食品を出してくれた。デコンを塩と何かの香辛料に漬け込んだものらしい。歯触りが良く、酒が進んだ。

「だからね、農家さんのところじゃ、間引きしたデコンの妖精だ〜なんて噂があるくらいだよ」


 他にもたくさんの話を聞かせてくれたおかげで、あらかた2階層の正式なマップも出来上がったので、アレンダンはミクシにお礼をしようとしたのだが……

「じゃあ、お兄さんお片付けちょっと手伝って!今日ファナちゃん休みの日だから忙しくて」

「うなーぉ」


 1人と1匹にそう言われて、アレンダンは食堂の掃除を請け負った。


 アレンダンの掃除はかなり手早く丁寧だった。

最後の皿を湯に潜らせていると、仕込みを終えたドルクがそんなアレンダンを眺めるミクシを眺めている。

「ギルドの建物が出来たら、そっちで寝泊まりするつもりらしいぞ」

「え?そ、それはそうでしょ……お仕事なんだからさ」

「連泊割引、もう少し増やしてやればどうだ?どうせギルドは隣だ」

「父さん、気に入ってるね」

「猫もな」

 丹念に掃き掃除をし、ついでに石の床をブラシで磨くアレンダンの肩には、ふさふさ茶トラの猫が乗っている。

 ニックの話だと、今のところギルドには寝泊まりできるような部屋は作らないらしい、とドルクは付け加えた。


「ベッドで寝ないと、長くいい仕事は出来ないもんね。父さんがいいなら、提案するよ!」

 ミクシの褐色の頬がほんのりと色づいているのに気づいたのは、おそらく誰もいない。

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ボルカノダンジョンへようこそ! ひらえす @shahra

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