人生の荒れ狂う激流に突き落とされたひとりの女性の物語

ひとりの女性・志乃が辿った荒れ狂う激流のような十二年間におよぶ婚姻関係。
いや、それは早い段階で破綻していたのかもしれない。
子どものために耐え忍び、必死で前を向こうとする志乃を奈落の底へ平然と突き落とし、もがき苦しむ志乃をさらに地獄の底なし沼へ沈めようとする夫の姿に、人はここまで愚かになってしまえるのかと誰もが驚くだろう。

しかし、このエッセイは、単なる悲惨な女性の姿を綴ったものではない。
少しずつその現実を受け入れ、やがて大きな決断を下す、ひとりの女性が大きく成長していく姿を綴ったものでもあると私は思います。

また、当時の女性の置かれた厳しい状況(ハードルの高い離婚、蔓延る男尊女卑など)も文章から垣間見ることができ、そういった視点で読んでみても興味深い内容となっている。

最後まで読んだ時、志乃のその先を考えると手放しでは喜べなかった。それは読者側が考える以上に、志乃自身もその不安を抱えていただろう。それでも最後に大きな決断を下した志乃の姿は、どこまでも凛としており、心に秘めた決意からは、前向きに生きていこうとする熱い力強さが感じられた。

読み始めたら止めることができない程に、濃密な内容のエッセイです。
老若男女問わず、ぜひ手にとってお読みになってみてください。

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