●第4話
海は干上がり、大地が焦げた。
旧北極海のスバールバル諸島。ありとあらゆる種子を収蔵した”現代版ノアの箱舟”がある。そこに数百名の男性が冷凍睡眠していた。
物理法則を超えた力が有害な放射線を撥ねつけている。半透明なガラスケースは微動だにしていない。
赤いLEDが点滅して急速解凍が始まった。
「……ん? もう平和になったのか?」
一足早く目覚めた男たちがキョロキョロと周囲を見回している。出迎えに来るはずの女性がいない。
「男と女がいがみ合う時代が来たんじゃないのか?」
彼らが訝しんでいると、脳内に声が響いた。野性的な女だ。いったい、誰だろう。
「太陽だって? あんた、男じゃなかったのかよ!?」
頭を抱えながら虚空に問いただす。
「お、女? 女はもうとっくにいるじゃないか? なぜ、創造する?」
見えない手が裸の男をひょいっと持ち上げて、手術室へ連れていった。
「うわあっ、何をする。ぎゃーっ!」
悲鳴が騒音にかき消された。
「……わかった。言うとおりにする。何でも聞くから穏便に済ませてくれ」
聞き分けのいい男たちが”太陽”と交信していた。
”彼女”が言うには、いい加減に地球人類を”リセット”したかったが、全世界を滅ぼして一から再建すると骨が折れる。
それで、効率的な手段として、聖書の神がアダムの肋骨からイブを創造したように、男性の染色体から女を創ろうとした。幸い、両方の性染色体がそろっている。
「女たちをどこへやった? 都合のいい女をデザインするために抹殺したのか?!」
正義感に燃える若者が糾弾した。
「そうだ。俺のレイチェルを返せ!」
元夫と名乗る男も吼える。
「ふざけんな! 女だらけの世界へ引き渡す、だと?!」
太陽は答えた。
単為生殖する文明があるのだ。低俗な恋愛に溺れず、精神性を高めた。それはそれで人類の分岐として栄えていくのだろう。だが、私は地球人類の再生に望みをかけたかった。
それで、いささか乱暴な……そう、外科的治療を施した。
「雌の猿がボス猿を篭絡する際に邪魔な妻子を根こそぎ殺す……ってヤツか……」
レイチェルの元夫は吐き捨てるように言った。
そう。でも、わたしは誰も殺さない。
地球人類を” あ い し て る か ら”
永久影と太陽の季節 水原麻以 @maimizuhara
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