●第3話




永久影は文字通り、この世の終わりまで続く日陰だ。やがて死の常夜が訪れる。通信衛星なしでは地球と交信できない。


「そういうところに墜落した時の訓練でしょう?」


軽蔑するようなまなざしを向けるレイチェル。


「……だからこそ、はまらないように細心の注意を払っているんだ。側溝に落ちる歩行者はいないだろう?」

    

「でも、アタラクシアさんったら! 落っこちたじゃないですかああっ!!」

赤ら顔のアテンダントに叱られると、機長もたじたじだ。

「……」

気まずい雰囲気から逃れようとアタラクシアは視線を泳がせた。

頬を紅潮させレイチェルはすっかりできあがっている。


「太陽風に押し流されたんだ。突発的な。理論上はありえない。意図的な何かすら感じる」


アタラクシアは今回の事故を人災ではないかと疑っている。


と、その時、レイチェルが嬌声をあげた。

「機長、宇宙船です~」

胸を隠すように双眼鏡をぶら下げている。

「定期航路から外れているが?」


アタラクシアは腕をひかれるまま、デッキを駆け上がった。クラスを床で叩き割ったようにキラキラした光点が夜空を横断している。


「やったあ! 助かりますうぅ」

「レイチェル、貴女ねぇ!」





    

スキップするレイチェルを叱りつけ、アタラクシアは機長席に戻った。

何かがおかしい。

緊急処置システムのコンソールを叩いて、封印を解除する。

キーワードを思いつくままに打ち込んで行く。


【エクソダス】


やっぱりだ。地球にもしもの時があった場合に備えて、できうる限りの女性をヴァルカンに疎開させる計画。その船団が飛来したのだ。


「太陽はどうして、あたしたちを試す?」


レイチェルは見る見るうちに青ざめていく。エクソダス船団はトゥオネラ号に見向きもしない。


「あたし達、どうなっちゃうんですか~~?」

「レイチェル。大プールにお湯を張ってくれ。真水じゃない。生理食塩水だ」

アタラクシアはそういうやいなや、ネクタイを緩めた。見る見るうちに下着姿になる。

「頭、大丈夫ですかぁ」

「おかしくなったのは、地球人(あいつら)だ。グズグズしてると、バスに乗り遅れちまうよ!」


二人は乗客を急いでプールに飛び込ませた。そして、頭まで浸かるように命じた。


地球に核の嵐が吹き荒れていた。人口密集地は陥没し、キノコ雲が砂漠地帯に湧き上がる。

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