●第2話



「貴男はスバールバルの世界種子庫で冷凍保存されてなさい。絶滅危惧種なんだからねッ!」


女たちは早々と三下り半をつきつけ、太陽をめざした。




    

トゥオネラが惑星ヴァルカンの周回軌道に入った。誘導ビーコンに誘われるまま、ぎらつく太陽に照らされる。

焼けるような熱さが嘘のように消え去った。

惑星は逆重力レンズ効果によって輻射熱を全反射している。


唯一、定められた回廊だけが太陽の恵みを地上に招き入れている。この仕組みは高度先進文明の技術ではなく天然の妙だ。


大自然の驚異は人間の敵ばかりではない、時に救世主でもある。トゥオネラの女性機長は寄港するたびに感銘を受けた。


「みなさま、まもなく希望の星、ヴァルカンでございます」


アテンダントがマイクを握った。









希望はこなかった。

現在、機外の温度は氷点下。舷窓という舷窓は霜でびっしりと覆われ、メインスラスターに氷柱が張りつつある。

元軍人でタイタンの雌豹と呼ばれた女性機長は冷静沈着に対象としている。

寒気は敵ではない。むしろ、火種は裸同然の女の子たちだ。トゥオネラの動力炉を全開せずとも暖気は保てるが、乗客の興奮は冷やせない。

「機長、何とか連絡を取れないんですか? このままずっと、あたしたち……」

キャビンアテンダントが23回目の弱音を吐いた。


”同じことを何度も繰り返す女は嫌いだ(あたしも女だけど)。頭ではわかっているくせに壊れたレコーダーの真似事をする”


    アタラクシアは苛立ちながらも、苦言を飲み込んだ。口にしたが最後、燎原の火のようにパニックが沸き起こる。


「レイチェル。みんなにアルコールを振る舞ってくれないか。わたしは結構だ」

「乗客にも、ですか?」

「ああ、そうでもしないとやってられないだろう」


機長は闇に閉ざされたスクリーンを見やった。トゥオネラ号は永久影と呼ばれる永遠の暗黒に落ちている。

レーダーによれば、現在地は直径百キロにも及ぶクレーターの底だ。急峻な外輪山が幾重にも取り巻いており、宇宙船でないと乗り越えられない。


そして、ここは惑星ヴァルカンですらない。


「どうして、水星なんですか?」

「あたしも長いこと機長をやっているが、水星の永久影に嵌った事例は聞いたことがない」


「だって、ありとあらゆるシミュレーションを受けているんでしょう?」


「レイチェル。水星の傾斜角度は0度なんだ。ほぼ垂直の地軸を持つから、どうしても陰になる部分が出来る」

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