第二章 繋がり
入学式から三週間、高校の雰囲気にも徐々に慣れ、クラスメイトと話すのが自然と多くなった。今日からは部活の勧誘が始まる。咲高はスポーツに力を入れていて、特にバレー部は全国常連校だ。僕は小学一年の時からバレーをやっていて、この学校に入ったのもこれが大きかったりする。
放課後にでも体育館に見に行かないと…
そう思いながらスマホで咲高の体育棟の場所を確認した。
「漣ー、先輩から呼び出しー」
クラスメイトが教室の入口から叫んでいるのを聞いて咄嗟に立ち上がった。机をよけながら初めて見る顔の女子の先輩に近づいて行った。
「ごめんね急に。別に大したことじゃないけど、人多いから屋上階段に行ってもいい?」
身長はだいたい150センチくらい、目鼻立ちが綺麗で可愛い顔の人だなと思った。だけどまるで接点がなくて何故いきなり呼び出されたのか不安になった。無意識に失礼なことをしてしまったのだろうか…
「あの、僕なんかしちゃいましたか?」
「えっ、ううん全然違うの。話っていうのはね、先週の金曜日、図書室に行ったでしょ。」
そこまで先輩に聞かれて思い当たる節があった。
「プリントのことですか?」
先輩の顔がパッと明るくなった。
「そう、それ!!何処にあるか分かる?」
「僕の家にありますよ。大切なものなんですか?」
「私、文芸部に所属してて来週から文化祭に向けて文集作りを始めるの。それで過去の文集本を元に進めてくんだけど…私が資料無くしちゃったの…」
照れたような顔をして、先輩は俯いてしまった。その表情が無性に胸に来て、
「じゃあ、明日もってきます。」
頭を無意識に撫でてしまった。
えっと驚いた顔で先輩に見つめられ、手を退けた。
「すみませんっ、いきなり…」
何してるんだ名前も知らない人に…
先輩は少し困ったような顔をして
「えっと、じゃあまた明日…」
手を小さく振りながら帰って行った。
そのあとの授業は全然頭に入ってこなかった。
「何ぼーっとしてんだよ。部活見学行かねーの?」
心配そうな顔をして山野が覗き込んできた。
「ごめん、今から行く。」
「お前さ、バレー部一択だろ。別に見に行かなくても良くね?」
ジャージに着替えた後、第3体育棟に向かっている時に山野が言った。少し考えてから答えた。
「んー、でも雰囲気とか強い人とか一応みておきたくて。しかも、近くにはクラブチームの練習場があるからそっちにも行けるわけだ。」
「ふーん、そんなもんか。まあ、俺もバレー部見たいと思ってたし。」
「咲高は全国常連校だし、心配要らないと思うけどな。」
教室を出て30分程歩いたところに人だかりができていた。よく見ると、1年生だということが分かった。咲高の制服はネクタイピンの色が学年で違う。1年は緑、2年は黄、3年は青となっている。
「バレー部の見学か?結構人数いるな。」
背伸びをしながら、人だかりができている先を見ながら山野が言った。ここは第3体育棟1階の観戦場だし、咲高のバレー部は強豪だからこの人数にも納得だ。僕は辺りを見渡した。だいたい、170センチくらいの人が多いが、前の方に1人だけ頭ひとつ大きいのがいた。その男に既視感を覚えていた。
「おい、もうちょっと前行こうぜ。全然見えねぇ。」
「あぁ、そうだな。丁度、あそこらへんが空いたんじゃないか。」
僕のことを待たずに山野は人の間を抜けて、前の方に言ってしまった。さっき見つけた隙間もいつの間にか消えていた。仕方ない、此処で見るしかないようだ。
中には30人ほどの部員がいて、開かれた3面コートで試合をしていた。強豪だけあって体格のいい人ばかりだった。強いサーブやアタック、綺麗なレシーブが次々に繰り出されていた。中でも中央で行われている試合は音といい、高さといいとても目立っていた。きっと三年生がやっているのだろう。身長も高い人ばかりだった。
「なぁ、そろそろ帰らねぇ?」
いつの間にか周りの人数が減り、山野が制服の裾を引っ張っていた。
「もう、そんな時間か。」
「あっねぇねぇ、きみ待って!!」
山野と出口に向かっている時、タオルで汗を拭きながら赤のTシャツの先輩が話しかけてきた。
「なんですか?」
「きみ松中だよね、去年全国行ってた。」
近くで見るとイケメンだなと思いながら「そうですけど」と答えた。
「俺、進藤涼って言うんだけど。去年の全国、観戦しに行った時すげぇなって思ってたんだよ。だから、絶対に入部してね。」
「はあ…」
僕の返事を待たずにコートの方へ行ってしまった。何だか、忙しい人だな…
糸 メガネ様 @Megane0921
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