欠けた黒

太宰が消えたと騒ぎになっているポートマフィアビル内を中原中也はボトル片手に歩く。

「さて、どこで飲むかな。」

ビルを出て、バイクに跨がり走り出す。


太宰が消えたと聞いた時は驚いた。喜びよりも驚きの方が勝っていたのはしゃくだが。詳しい話は知らないが、ミミックという組織とぶつかる話は聞いていた。太宰もそれに絡んでいたはずだ。もしかして、、と思い当たることがあった。織田作之助、か?太宰失踪の知らせと共に耳に入ってきた名前。今回の抗争での犠牲者だったか。知り合いという程では無かったが、太宰の野郎といるところを見たことがあった。太宰にしては珍しく楽しそうに話していた相手だ。


バイクを走らせて数分。ふと思い立ち、ある場所に向かう。洋館をのぞむ公園。といっても、その洋館は既に崩れかけているが。生垣いけがきを抜け、並んでいる煉瓦柱の一つにいつかのようにふわっと飛び乗った。ちょうど夕陽が水平線に沈みかけているのが見える。

「いい眺めじゃねぇか。」

そのまま腰掛け、持ってきたボトルを開ける。ペトリュスの89年物。祝いの酒にぴったりな品だ。一人酒を楽しみながら、夜を迎える街を見ていた。夜を支配するポートマフィア。


『長とは組織の頂点であると同時に組織全体の奴隷だ。組織の存続と利益のためならば、あらゆる汚穢に喜んで身を浸す。部下を育て、最適な位置に配置し、そして必要とあらば使い捨てる。組織のためならばどんな非道も喜んで行う。それが長だ。』


そのポートマフィア首領の言葉が浮かんできた。

《使い捨てる》

そこだけが頭の中で反響する。太宰の木偶でくだか、織田って奴だか、どこまでが首領の計算の内かは分からねぇが、長としての覚悟の一片を見た気がした。太宰にも誰かを失ったことを憂う心があったとは。奴も人の子だったって訳か。俺にとっては悪魔野郎だが。まぁ、誰が使い捨てられようが俺が首領に従うことに変わりはねぇ。あの時、首領の答えを聞いた瞬間、この人に仕えようと決めたのだ。一生、敵うことのない相手だ。


葡萄酒をまた一口味わい、悪魔野郎との別れに祝杯を挙げる。

「良い夜だ。」


─ 🍷 ─ 🍷 ─ 🍷 ─ 🍷 ─ 🍷 ─ 🍷─ 🍷


翌朝、今日から奴と顔を合わせなくて済むと上機嫌で支度し、思わず飛び跳ねてしまいそうになるほどの足取りで職場に向かうため駐車場に行った。そして、自慢の愛車のドアを開けた瞬間――。


ドォォン!!!


大きな音と共に吹っ飛ばされた。とっさに異能でガードしたため彼自身にはダメージは無いが、さっきまでそこにあった愛車は、、、。


「――!!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る