論理的最適解

ミミック兵壊滅の知らせをポートマフィア首領―森鴎外―は執務室にて受けた。構成員である織田作之助の死と自身の右腕でもあった最年少幹部―太宰治―の失踪を置き土産にミミック事件は終結した。いや、森が仕組んだ事件だったのだ。終結させたと言って善いだろう。

「全て計画通り。これが論理的最適解だ。」

そう呟いた森の顔には寂しいような、それでいてどこか安心したような複雑な表情が表れていた。


 ミミックを横浜に招いた時点で織田君の死は予想済みであった。もちろん彼が優秀な異能力者であることは知っていた。それでもミミックに対抗しうる唯一の策として彼を差し向けた。織田君の死とともに太宰君が私の元から消えるという可能性も感じていながら。しかし、何を失ったとしてもこれら全ては組織のための最適解。森の中に後悔の気持ちはなかった。


―だが。太宰君を失ったことは損失となるだろう。ポートマフィアがここまで勢力を伸ばしたのは彼の力によるところが大きい。しかし、その喪失感と同時に妙な安堵感も覚えていた。私は自分によく似た太宰君に対して何か懼れを感じていたのだろうか。自分の中にある混沌とした感情に戸惑いながら夜の横浜を見下ろす。結果としてこの街を守れたのならば。


「広津さん、報告ご苦労さま。」

森が報告に来た老齢の片眼鏡を掛けた構成員に声を掛けると、その男性は静かに部屋を出て行った。一人になった部屋で呟く。

「長とは組織の頂点であると同時に組織全体の奴隷だ。組織の存続と利益のためなら、あらゆる汚穢に喜んで身を浸す。部下を育て、最適な位置に配置し、必要であれば使い捨てる。」

自分の中にある長としての覚悟は変わらぬままだ。

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