∃『追憶のゲシュタルトⅠ―人喰ノ鬼篇―』-Reminiscence of Gestalt -nameless demon-

柊 佳祐(紡 tsumugi)

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00 序章 “独白”



「大抵の人々は 自分で選んだ分だけ幸福になれる」――エイブラハム・リンカーン



 人の言葉とは、いつだって無責任なものだ。


 いくらそれにすがり付いてみたところで、所詮しょせん 物事の結果結末は ふたを開けてみるまでは、誰にもわからない。


 なのになぜ、人はそれを求めるのか?


 その答えは簡単だ。他でもない己の為だろう。選択にせまられない人生などありはないし、決断をしない生涯などあり得ない。そして、どんな選択肢を選び進んだとしても、それが最善だったかどうかを知るすべはない。


 ならば、どんな酷い事態を招いていたとしても「仕方がなかった」、「どうしようもなかった」と、言い訳できる理由は 最低でも欲しい所だろう。


 ……聞こえは良くないが、それは決して悪いことではないし、他人から責められることでもない。誰もが手前勝手てまえかってにその時々で、規律 法律 理念 理想 思想 宗教 格言諸々もろもろを歪曲して、利用して生きているのだ。


 そんなものだし、それでいい。


 人一人の力などたかが知れている。人は己にしかなれない。だからこそ皆々みなみなこぞって保身に走るのだ。そうでなければ人は、この先歩み進んでいけなくなってしまうだろう?


 人がそう易々やすやすと確信を持って奉仕できる程、この世のことわりとは、精巧うまくできていないのだ。


 しかし『彼』にはそれが許されなかった。いや、他でもない彼自身がそれを許せなかった。


 元を正せば、それは人として当然の願いからだった。特別なことでは決してない。


 いつ、どこで、どうして、なぜ?


 そんな疑問詞を付ける間もなく、進み続けたその結果結末は幸か不幸か?


 それをはかることこそ、私の……傍観者ぼうかんしゃとしての特権なのだろう。



――水代 冒頭 独白。


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