第五話 アイドル声優・木の葉さくや

ここで私は

犯人2人が大ファンだった

萌アニメ「緒刀女(おとめ)」の

声優「木葉さくや」氏のインタビューに成功した。


当初、私のオファーは、

松平学園殺傷事件に関わるインタビュー

ということで何度も断られた。


だが、


「事件の真相を知りたい」


「このような事件が二度と起きて欲しくない」


という私の誠意を何度も伝えたところ、


「ぜひ会いたい」


ということで

「木の葉さくや」氏はオーケーしてくれることとなった。


大江戸州。


第7地区。


決して大きいとは言えず、

建てられて30年は経過したであろう

古臭い5階建てのビルの一室。


そこが「木の葉さくや」氏の

芸能事務所であった。


元々、弱小芸能事務所であったが、

「木の葉さくや」氏の爆発的なブレイクで、

一気に人気事務所になったらしい。


そのため

一時は売り上げが50倍近くになったという。


だが、

今回の事件のせいで、仕事は激減。

経営の危機を迎えているとかいないとか。


私は「木の葉さくや」氏と、

事務所近くの喫茶店モディリアーニで

待ち合わせをすることにした。


モディリアーニで、

コーヒーを飲むこと10分。


待ち合わせ時間の5分前に現れた「木の葉さくや」氏は、

喪服のような黒いスーツ姿で私の前に現れたのであった。


普段、子供のような幼さが残る声と、

童顔ながらも整った美しい顔。


そして豊満な胸、妖艶な服装で

多くの男性ファンを釘付けにしている彼女だけあって、

この日のスーツ姿は全くの意外なことであり、

最初見た時は、


「事務所スタッフが来た」


と勘違いしてしまうほどであった。


それほどまでに、

その日の「木の葉さくや」氏は

普段と雰囲気が違っていたのである。


丁寧で真面目な挨拶をする彼女を見て、


私は

「普段のロリキャラは、あくまで演技」


と認識を改めさせられることとなった。


そう。


本人はいたって真面目な人物であったのだ。


暗い顔ながらも木の葉さくや氏は話をしてくれた。



「今回の事件。とてもショックでした。

被害者の方を思うと・・・。

あの後、一週間何も食べることが出来なくなってしまい、体調を崩してしまいました。

事務所から無理にでも食べるようにと注意されました」


うつむき加減の「木の葉さくや」氏は

本当につらそうであった。


私は、そんな「木の葉さくや」氏に

話を聞くのは悪いと思ったものの、

それでも聞き出すのが私の仕事である。


質問をしようと思った矢先、

彼女の口から驚きの言葉が発せられた。


「これはまだ極秘なんですが。

私、近々引退することになりました」


驚く間もなく、

「木の葉さくや」氏は理由を説明してくれた。


「あの事件の後、

私や事務所に恐ろしいメールやコメントがくるようになりました。

『木の葉さくやも犯人と同罪』

『許せない』

『殺せ』

『仇を討て』などです」


震えながら話す彼女であったが、

詳しく聞き取ってみると、


「歪んだ性欲の男どもが喜ぶ性搾取の代表格である木葉さくや。


彼女のようなロリコン萌えアイドル声優が、犯人A、Bのような異常者を生んだ。


よって犯人二人が信奉していた木葉さくやにも

事件の責任がある。


木の葉さくやは同罪である」


このような意見が数多く、

チクッターなどのSNSでも

あげられていたのである。 


このため、

殺害予告のメールや手紙が

事務所に大量に送られてきた上、

事務所のスタッフが通り魔に襲われ

全治二か月の大けがをおったこともあったという。



事件後、

萌えアニメやアダルトアニメ、

アダルトゲームは猛烈に叩かれた。


なぜなら犯人のAとBがアダルトゲーム

「緒刀女(おとめ)」の熱狂的ファンだったからである。


「アダルトゲームや萌えアニメが無ければ、

AとBのような人間は現れることは無かった。


そして松平学園殺傷事件のような凄惨な事件は起こらなかった。


AとBのような人間を生んだ

アダルトゲームや萌えアニメが諸悪の根源である。


このような事件を二度と起こさせないためにも、

アダルトゲームや萌えアニメをこの世から抹殺すべきである」


こういった意見が世間に蔓延し、

世を沸騰させることとなったのだ。


実際、読者諸兄姉の中にも、

この意見に賛同する方はいるであろう。


だが、待ってほしい。


果たして本当にそうなのだろうか?


本当に、アダルトゲームや萌えアニメが

AとBのような怪物を生んだのであろうか?


確かに、AとBは事件を起こす前、

カラオケで「木の葉さくや」の歌を歌っていた。



それはまぎれもない事実である。


そのため皆、

木の葉さくや氏やアダルトゲームである

「緒刀女(おとめ)」を叩いている。


だがなぜ誰も言わないのだろう?


AとBは事件の前「カラオケ」で歌っていたのだ。



ならこういった意見があっても良いのではないか?


「『カラオケ』が松平学園殺傷事件を起こしたのだ。

『カラオケ』の存在こそ凄惨な事件の原因である」


と。


だが、誰もそんなことは言わない。


皆、口をそろえて

「アダルトゲームが悪い。萌えアニメが悪い」


と叩くだけだ。


一体これはどういうことなのか。


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くたばれ士族ども! ヨシダケイ @yoshidakei

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