第21話 孤児院の生活
こうして名前を変えて孤児院で暮らすこととなった。俺はジョナス聖暦二三一六年四月十七日生まれの九歳だ。誕生日がわからないから孤児院への入所日が仮の誕生日となった。「本当の誕生日がわかれば直すからね。」と言われたが、俺が言わない限り訂正されることはない。
この孤児院は赤ん坊から十五歳までを五つのクラスに分けている。一歳までの乳児クラス、五歳までの幼児クラス、九歳までの年少クラス、十三歳までの年中クラス、十四歳以上の年長クラスだ。
孤児院は年上のものが年下の面倒を見るのが基本のルールだ。職員が五名いるが乳児と幼児の世話でほぼ手一杯なので、年長クラスの女子を中心に孤児が乳児や幼児の世話を手伝っている。年少クラスの手洗いや着替えは年長や年中クラスの仕事になっている。食事の準備や後片付けは年中クラスが中心になって行う。食事は通いの賄さんが作る。
読み書きや生活するためのルールや罰則、礼儀作法、簡単な計算は院長と副院長が教えている。勉強熱心な子供は孤児院に協力的な商人の店の手伝いをしながら教えてもらう。年中クラス以上の男子は戦闘訓練が必須で、週に一日街の守備隊から指導に来てもらっている。年長クラスになると冒険者ギルドで簡単な依頼を受けることが出来るようになる。そのほか職人ギルドや商人ギルドから様々な職種の指導者を派遣してもらい子供たちの仕事への興味を育てている。
年中クラス以上になると奉公先が紹介されるようになる。院長や副院長は子供の向き不向きを考えながら奉公先や仕事を斡旋する。
孤児院の卒所年齢は十五歳だが状況によっては十八歳くらいまで延長できる。ただし、自立するために努力をしないものは強制的に軍に加入させられるか鉱山労働をすることになるので自主的に退所してゆくことになる。誰にも生きる権利はあるがむさぼる権利は存在しない。
俺は九歳だから年少クラスということになる。しかし読み書きや計算はそこそこできるので免除になった。生活するためのルールや罰則、礼儀作法はとても役に立っている。お母さんの手伝いをしていたということで薬草採取や湿布薬作りをしている。また、戦闘訓練にも参加し毎朝自主練習を行っている。院長先生の許可を得て孤児院の畑(年中と年少クラスが中心となって野菜を栽培している。)の片隅で徐虫草の栽培を始めた。徐虫草を練って徐虫香にしたら虫が来なくなったと喜ばれた。
実は内緒の話だが、徐虫草にバクテリアを寄生させたんだよ。転生前の世界でバクテリアから抽出した物質でノーベル賞をもらった人がいたことを知っていたので、この世界で同じ働きをするバクテリアを探したんだ。これがノエミ師匠のところにいた俺の研究テーマの一つだった。虫が来なくなっただけではなく蚤やダニが駆逐されているんだけど・・・・気づかないところが良いところなんだよね。だってベッドがすごく痒かったんだから・・・・
入所から一年経って俺は十歳、年中クラスになった。院長先生が
「ジョナスが来てから一年経ったわねえ。今日から十歳、年中クラスよ!おめでとう。あなたは良くやっているわ。」
と言って頭をなでてもらった。それだけ・・・
いや、何を期待しているんだ。ケーキかお誕生会か、そんなもの貴族様以外には存在しない・・・
∬∬∬∬∬場面変化∬∬∬∬∬
マリサから聞いたんだけど虱を湧かす子が少なくなって子供たちの先発の回数が減ったとのこと。
『健康には良いことなんだけど・・・どうしてって???思うわよね。』
今日は治療院のアビガイルと出会った。治療院の薬草畑の世話をしていたものが辞めてしまったらしい。代わりを捜しているとのこと。母親が調剤師だった子がいて薬草の扱いに慣れていると言ったら、是非世話してくれと言われた。ジョナスに合うと良いのだけれど・・・
「ジョナスちょっと来て!話があるのよ。」
∬∬∬∬∬場面変化∬∬∬∬∬
院長に呼ばれて俺は院長室へ行った。
「ジョナス。治療院から薬草畑の世話のできる子供が欲しいって言ってきたんだけど。あなたに丁度よいしごとだと思たんだけどどうかな?」
「どうして俺が?」
「ジョナスって薬草の知識があるでしょう。そんな人材は貴重なのよ。」
「確かに母さんの本を見ていたけどそれだけだよ。」
「それでも全く初めてよりは良いのよ。」
「勤まらなかったら辞めてもいいですか?」
「いいわよ。」
「じゃ、わかりました。」
『薬草の世話か・・・まずいかもしれんが・・・』
この世界の治療方法には興味はあった。転生前は医者になりたいと思ったこともあったし・・・この世界で新しい知識が得られるかも知れない。
カミー伝(転生したら絶対に目立つことはしたくない!) タリムン @InterStellar999
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