第20話 孤児院

 ロープとリュック、それと山刀を孤児院の屋根裏に隠した。師匠の手帳は鉄で密閉し石組みの隙間に挿入して取り出しができないよう周囲を固めた。

 ここまでしたところで寝落ちしていた。


聖暦二三二五年四月十七日


 朝早く俺は普段着に着かえて屋根裏を抜け出し昨日とは違う屋台で串焼きを買った。そして昼前に教会の前で串焼きを食べながら立った。待ち人を捜すように教会の前にたたずみ、ときには教会の壁に背中を寄せながらひたすらおじさんが来るのを待ち続けた。その間、修道女のような人が何人も通って行った。声をかけようか迷う風情の女の人もいたが、結局は声をかけずに教会の中へ入って行った。夕方、教会の前でうずくまっていると灰色の修道服を着た女の人がやって来た。


「どうしたの?」

「おじさんを待ってるの。」

「いつ頃迎えに来ると言ってたの?」

「知らないけど、迎えに来るからここにいなさいって・・・」

「お名前はなんていうの?」

「ジョナス・・」

「どこに住んでいるの?」

「今は知らない。お母さんが死んだときおじさんが「一緒に行こう。」って言ったの・・」

「そのおじさんって?」

「お母さんと一緒に暮らしていたの・・・お母さんの妹が居るところに連れて行ってやるって・・・」

「その妹さんはどうしたの?」

「知らない。この街であっちこっち行ったんだけど・・・今日行くところは子供が行くと怖いところだから教会で待っているように言われたの・・・・」

「そう。ここはもうすぐ暗くなるし寒いからこの中で待たない?」

「うん・・・」


『あ~あ! 捨てられたんだ! 子供を捨てるなんて許せないけど、係累が見つからなかったんだねえ。』


 私は子供の手を引くと教会の中へ入った。入り口の番をしている人に


「この子を捜している男の人が居たら連絡して。」


と頼んだ。子供の手を引いて孤児院の私の執務室へ連れ込んだ。途中であったものに温かいスープを執務室まで持ってくるように頼んだ。執務室のソファーに子供を座らせると


「ジョナス。あなたのカバンの中を見てもいい?」

「うんいいよ。」


 ジョナスのカバンには下着の替えが一着と手紙と金袋が入っていた。手紙には

「妻の妹が働いているということで連れてきたが働いていると聞いていたところには居なかった。二~三カ所探したがわからなかった。この子は俺の子じゃない。俺も生きるために必死なのでこの子を育てるのは無理だ。申し訳ないがよろしく頼む。少しだけどお金を入れておく。すまない。」

金袋には銀貨九枚と銅貨が十一枚入っていた。


『まあ悪い男じゃなかった。ってことね。』


スープが来るとスープを飲みながら涙があふれて子供の頬を濡らして落ちていた。私は子供の背中を優しくさすった。


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