第19話 逃避行2
聖暦二三二五年三月十七日
俺は断続的に魔力探知を行っている。その探知で魔力を感知した。俺の右手の方から隠れている場所を目指して進んでくる。魔力の挙動に変化がないので気づかれてはいないと思う。その魔力は俺の前方約十メートル程のところを通過して行った。
『携帯食料がいつまで持つかだな。できるだけ伸ばして一週間ぐらいか・・・』
ナッツ類や干し肉をリュックの半分ぐらい入れてきた。どこまで持つかで隠形期間が決まる。
聖暦二三二五年三月二三日
『さあ そろそろ動くか。食料も無くなったし・・・』
聖暦二三二五年四月
昼は睡眠と食料調達、夜間に移動を繰り返しながら進んでいたある日
「あった!あったわ!薬草。」
「僕も見つけた!」
わいわい騒ぐ子供たちの一団があった。
「みんなっ! 時間よ! 集まりなさい!帰るわよ!」
十人くらいの子供が集まってくる。
「院長先生たくさん取れたよう~」
「みんなお友達を確認して! みんないるわね?」
「はい! 先生十人全員います!」
「じゃあ帰るわよ! みんなついて来なさい!」
大人に引率された子供たちの一団が喧騒に去っていく。俺はその一団について行った。二十分ほど歩いて林を抜け見えてきた街の入り口に向けて進んで行く。引率の大人が門番に挨拶して子供たちは街に入って行った。
暗くなるまで待ち壁を乗り越えて街の中へ入った。壁は五メートルほどの高さで二十メートル間隔で監視台が設置されていたが監視する者はいなかった。
『これって入り放題じゃね?』
自分の判断で街中へ入るのは初めてだった。陰村やマミーの村と違い、家々が重なり合うように建てられている。珍しさもあって夜の街中を徘徊した。明け方近く無人の小屋を見つけたので入って眠った。
聖暦二三二五年四月十六日
目が覚めるとお腹が鳴った。
『食い物を探すか。』
街中は結構な人通りがあった。食べ物を抱えてくる者がいたので、その人が来た方向へ進んで行った。
『う~ん! 良い匂いがするなあ。食べ物か。こっちの方だな・・』
匂いを追って行くと屋台が並んでいる場所があり、人だかりがしていた。串焼きの店がありその列に並んで待った。
「二本頂戴!」
「へいお待ち! 銅貨四枚だぜ!」
俺は銅貨を四枚出して串焼きをもらった。串焼きを食べながら街中を見回す。こちらを見る子供を見つけた。子供の目線は串焼きを見つめている。
俺はその子のところへ行くと
「おはよう! 食べる?」
といって串焼きを差し出した。
「えっ!」
という言葉と一緒に盛大にお腹が鳴った。
「いいのか!」
「いいよ! 二本も食べられないから。」
俺たちはみんなの邪魔にならないよう隅の方へ行って食べ始めた。
「この街で俺たちみたいな子供が働けるところはある?」
「知らないや! 奉公している子供はいるって聞いたけど保証人が必要なんだって。十五歳になったら冒険者ギルドに登録すると働けるらしい。」
「じゃあ子供はどうしたらいいの?」
「母さんは「私がいなくなったら孤児院へ行け!」って言ってる。子供向けの仕事も孤児院が世話してくれるって聞いたよ。」
「そうなんだ。」
「あっ! 母さんだ! じゃいくね バイ!」
「ああさいなら!」
串焼きを食べ終わった俺は孤児院を探すことにした。
孤児院は街の西部、スラム街の近くに、教会の会堂に併設していた。夜を待って建物に侵入する。孤児院では食事が終わったようで、大きい女の子が後片付けをしている。おおきい男の子は今日の仕事を身振りを含めて大人の女に報告し、終わると稼いだ金を女の人に差し出した。
「ま!ありがとう。これからもよろしくね。だけど危ない仕事はだめよ!」
子供たち一人一人の頭をなでながら優しく伝えていた。少し小さい子供たちは採ってきた薬草で湿布薬を作ったこと治療院に届けたことを口々に話した。
「みんな本当にありがとう。無事なあんたたちが一番なのよ!」
「さあ!小さな子は寝る時間よ。」
子供たちは小さな子の寝る準備を手伝って寝室へ向かった。
『九歳では働く場所もないし、ここに潜むのもよいなあ・・・』
俺は孤児院で養ってもらうための作戦を考えた。
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