第18話 逃避行1

聖暦二三二五年三月十五日


 ノエミの屋敷で目が覚めると俺は子供を見に行った。作業小屋の扉を開けるともう子供はいなかった。小屋の壁に


「一晩止めてくれてありがとう。村長のところへ行きます。」


と書いた紙が止められていた。


『おお、自分で判断してもう行ったのか。感心感心。』


 俺はメソメソ泣き出す子供を考えていたが、自分から出かけたというのは面倒がなくて良かった。後は新しい調剤師に引き渡すだけだなと考えて屋敷の中に戻った。昼少し過ぎた頃に新しい調剤師が来たので屋敷の引き渡しを行った。そして村長に報告に赴いた。


「村長引き渡しが終わりました。」

「ご苦労。ところで子供はどうした?」

「えっ! 来てませんか? 村長のところに行くと書き置きがありましたけれど???」

「何時だ?」

「朝方ですが・・・」


村長は部屋にいた若者に


「子供を捜して連れてこい!」


と命じた。


俺はこれまでの経過を詳細に村長に報告した。


「取り合えず帰っていい。」


と言われたので不味いことになったと思いながら帰宅した。


一方村長は


「守備隊と追跡衆、治安維持衆を呼べ。」


 俺は守備隊と追跡衆、治安維持衆を呼ぶと調剤師ノエミの魔力なしの弟子が逃走したことを伝え、守備隊には結界の強化を当分続けるように命じた。治安維持衆には村の中を捜索することや協力者の有無を調査するように併せて緘口令を命じた。追跡衆には逃走経路の確認と村外に出てしまっていた場合の追跡を命じた。


「直ちに活動を開始せよ! 報告は毎日行うこと。」


村長はダビドが子供を連れてきたときのことを思い出していた。


『魔力水晶で確認したから魔力がないのは間違いがない。葬式のときの様子も素直な子供としか思えなかった。村に潜んでいる可能性もあるか? もうすぐ暗くなるし、まともな捜索は明日からだな。』


聖暦二三二五年三月十六日


 今朝はうっすらとした積雪があった。昼過ぎに子供の足跡が作業小屋から薬草畑を越えて森の中に入っていると連絡があったので、俺は山狩りを命じた。積雪の影響で足跡がわかりにくくなっているとのこと。現在北尾根の崖を中心に捜索していることを伝えてきた。治安維持衆からは村の中に潜んでいる様子はないこと協力者も見当たらないことが伝えられた。

夕刻、北尾根の崖下に向かうと連絡があった。


聖暦二三二五年三月十七日


成果なし


聖暦二三二五年三月十八日


 北尾根崖下の積雪部分に荷物が落下したような痕跡があったこと。街道を中心に目撃者等の聴取を含めて捜査範囲を拡大している。


聖暦二三二五年三月十九日


 ノエミと弟子が毎年三月に北尾根の崖地で薬草を採取していたとの報告があった。


聖暦二三二五年三月二十日


成果なし


聖暦二三二五年三月二一日


成果なし


聖暦二三二五年三月二二日


成果なし


聖暦二三二五年三月二三日


 初期捜査を打ち切ることにした。今後は各地に回状を回す取り扱いとした。

 大失態だ!閣下に報告しておかねばならん・・・・



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