第17話 別れと旅立ち
聖暦二三二五年三月十三日
朝練を終えて家に入ったが師匠は起きてなかった。俺は朝食の準備をしてから師匠を起こしに行った。師匠は眠っているようだった。
『まだ寝ているのか?』
師匠の腕が胸の上で組まれている。
『夜具の上に出ていると寒いだろう。』
そう思って師匠のそばに行った。夜具を引き上げようと師匠の腕を触った。とても冷たいと感じた。あわてて師匠の顔を触ったが顔も冷たかった。俺の目からなぜか涙があふれてきた。俺はとても冷静に師匠が亡くなったことに気がついた。だけど涙が止まらない。師匠と暮らした六年間が走馬灯のように心に浮かんで行く。
「師匠・・・・・」
そのまましばらく涙がこぼれるままにした。大分の時間が経過してようやく知らせなければと思いついた。涙をぬぐうと薬局のフアンのところへかけて行った。フアンの家のドアをたたきフアンが現れると
「師匠が・・・」
といって俺はそれ以上を口に出せなかった。
「わかったすぐ行くから待ってろ!」
俺はフアンが出てくるのを待って一緒に家に帰った。フアンは家の中に入ると師匠の様子を確認してから
「俺は村長に連絡してくる。葬儀の手配もやっておくからお前は師匠の傍にいてやれ。」
「はい!」
村長と葬儀屋が来て葬儀の準備を行っていた。通夜には村長とフアンが来てくれた。
『師匠の親しい人って本当に少なかったんだな!』
通夜のとき村長からお前は弟子だけどこの薬草園を継がすことは出来ないと言われた。俺は事前に師匠から聞いていますと言った。こんな時に言うのもなんだがお金と帳簿、研究ノートはどこにあるのかと聞かれたので村長を師匠の研究室に案内した。金庫の場所と研究資料を示した。カギは?と聞かれたので机の引き出しにあると伝えた。そして通夜の席に戻った。
明くる日に師匠の葬儀が営まれた。遺体は村の共同墓地に埋葬された。村長から後で来るように言われたので今晩一晩家にいたいこと、もし家がダメなら作業小屋でもかまわないからと言うと
「いいだろう。一晩だけだぞ、お前が普段使っていたものは持ってきても良いからな!」
「ありがとうございます。では明日伺います。」
といった。
屋敷に帰るとまた目から涙があふれた。師匠のいない家は火の消えたように静かだった。俺は自分の部屋にあった仕事用のリュックサックに普段着と替え下着を詰めそのリュックを担いで台所に行き夜食を作った。二~三食分を作り屋敷の戸締りをすると庭の作業小屋に入った。夜食を食べ作業着に着替え、手帳と金袋と非常用の食糧をリュックに入れて床に藁を敷いて寝た。
聖暦二三二五年三月十五日
深夜日付が変わったころ目を覚ました。家を魔力探知すると居間のあたりに魔力反応があった。俺はリュックにロープを結わえてリュックを背負うと山刀を腰に差し、作業小屋の扉の音がしないように油をたらしてからそっと開けた。小屋を出たところで魔力探知を行い能力者がいないことを確かめた。居間の魔力反応も変化がなかった。俺はできるだけ音がしないように薬草園を抜けて山中へ入った。しばらく進んでから北尾根方面へと進む方向を変えた。
『多分ごまかすことは難しいだろう。』
過去世の知識でこんなとき、追跡者は土のこすれた跡や枝の折れ具合で追跡することを映画等で知っていた。この世界の人間ならできてあたりまえだと思った。できるだけ早くしかし慎重に、魔力探知を行いながら深夜の山道をたどる。
『確か石舞台の手前の方が傾斜が緩かったな。』
もう三年ほどこの石舞台で薬草を取ってきたからどこから降りれば良いかは知っている。石舞台の五メートル手前から崖を降り始めた。ここはまだロープを使わなくても降りれるし、横移動で石舞台の下まで進む。ここから五メートル降りたところから五十センチほどオーバーハングになっている。オーバーハングの上で杭を打ちロープを通して腰に結わえた。ロープを伝って降りるとそこで一旦停止し、崖の割れ目に杭を打ち込み少しづつ崖の方へ身体を寄せて行った。崖の割れ目の杭にロープを巻き付け身体を保持する。オーバーハングの上の杭を抜いて回収した。
そのとき足音がした。魔力探知を行うと二つの魔力反応があり尾根伝いに歩いている。俺は崖に身を寄せ音をたてないように身を潜めた。足音が近づいて、そして離れて行く。魔力反応を見る限り通常の巡回の様に思えた。音が聞こえなくなっても数分間動かず、それから再度降下を開始した。約四時間、空が白み始めた頃俺は最後の難関に出会っていた。垂直ではないが急斜面の一枚岩で杭を打ち込むところが見当たらない。岩の長さは約二十メートルロープの長さは約十メートル最後は滑り降りるしかない。もうすぐ明るくなる。俺は身体強化の強さにかけて滑り降りることにした。まず十メートルをぶら下がった。身体強化を行い杭を回収したとたんに岩の斜面を滑り出した。斜面を滑ってゆく。
『わあっ!』
と思ったとき積雪に突っ込んで止まった。しばらくそのままで身体の状態を確認していったがどうやら骨折とかはしてないみたいだ。
『雪がなかったらやばかったかも・・・』
動けるようになると雪をできるだけ均してそこを離れた。しばらく崖沿いに進むと山小屋があった。魔力探知すると魔力反応があったので山小屋にはよらずに崖沿いに進んでいき森の中に入った。そのまま一時間ほど進んだところで朝食を食べた。
しばらく歩くと道路があった。まだ早い時間で人通りもなかったのでその道を一時間ほど歩いてから森に入った。
昼食を食べた後、明るい昼間は道路沿いの林や森の中を進んでいった。
まだ日差しが残る夕方、小屋があったのでその小屋の床下に潜り込んで睡眠をとった。
聖暦二三二五年三月十六日
夜中に目を覚ますと床下から抜け出し道路沿いを歩いた。途中川があったので買わ沿いにしばらく進んだ。川の中に魚影があり、夜は魚の活動が不活発となるので簡単に突き刺すことができた。数匹を突き刺し、更に川沿いに進んだ人気のないところで火をおこし魚を焼いて食べた。食べ残しを始末し、木に登りロープで身体を結わえて眠りについた。明け方になると森の奥を目指して進んでいった。
『そろそろばれているだろう。当分この辺りから動かずにいよう。』
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