第18話 撃退

「もっと早く登ってよ!」


「そうは言うがな!」


 階段は錆だらけだ。

 建物の外周に取り付けられているので、風雨を浴びていたに違いない。

 いつ崩壊してもおかしくないのだ。


「ギャアーーーー!!」


 下から凄まじい声がする。

 そして、大きく揺れる階段。

 奴も来ているようだ。


「うおっとっとっと!」


 男はバランスを崩しながらも、なんとか上を目指す。


「バキ!」


 下から不穏な音がした。


「バキバキバキ!」


 音も登ってくる。


「崩れてるわ! 走って!」


「まじかよ!!」


 残るは、あと数段。

 大きく足を伸ばして。


「あ……!」


 最後に足をかけたところが、抜け落ちる。

 そのまま下に真っ逆さま。


「んぐぐぐぐ……!」


 にはならず。


 男は、一瞬宙に浮く。

 妖精が持ち上げたからだ。


「くっ……!」


 そのおかげで、なんとか片手が届く。

 間一髪二階にたどり着いた。


「ガラガラガラ!」


 背後では、完全に階段が崩れ去った。


「危なかったわね……」


「ありがとう」


「どういたし……きゃ!」


 下を覗き込んだ妖精が悲鳴をあげる。


「どうした?」


「生きてるわ……」


 瓦礫を指さしている。

 もうもうと立ち込める土煙の中でなにかが蠢いている。


「ギィー!!」


 出てきたのは、人。

 化物ではない?

 一瞬、二人はそう思った。


 しかし……。


「すげぇな……」


 両手を壁に突き刺して、登ってくる。


「早く行くわよ!」


 迎え撃つために、先を急ぐ。


――――――――――――――――――――


 たどり着いた二階の長い廊下を走る。

 目的地は実験室。

 この建物で、最も広い部屋だ。


「ここよ!」


 男は、妖精が示した大きな扉を開ける。

 中に入るととても広く、男が住んでいる小屋でさえも余裕で収まるほどだ。

 しかし、物はあまりない。

 部屋の隅、壁沿いになにか得たいのしれない実験器具や箱が積まれているだけ。


「あとは、あいつを待つわけだな」


 男は、部屋の中央に立つ。

 迎え撃つつもりだ。


「早くムラクモソードを準備して!」


 そう叫ぶ妖精は、積まれた箱の山を漁っている。

 なにか探しものだろうか。


「ムラクモソード、戦闘準備を」


 起動は済ませてある。


「ピピピ」

「現在戦闘モードに移行できません」


「は?」

「なんでそんなことを……!」


 今になって戦えないと言われても、後戻りはできない。 

 現に足音はすぐそこまで迫っている。


「グガーーー!!!」


 来た。

 盛大に入り口をぶっ壊して。

 扉だったものが側に落ちる。


 男の背中に、冷たい汗が流れる。


「グルルルルル……」


 睨み、ゆっくりと歩を進めてくる。

 よく見ると、笑っているようだ。


 化物に感情があるか。

 そんなことは、今まで考えたこともない。


 だが、前方のそいつはまるで獲物を見つけ、これからいたぶろうとしているかのようだ。

 この状況を、楽しんでいる。


「……どうして戦闘モードにできない?」


 目線は化物に向けたまま、語りかける。


「現在電磁バリアを展開中です」


 ここに入る前から言っている、電磁バリアとは。

 それさえもわからない。


「解除できないの?」


「その場合感染し、死に至りますがいかがなさいますか?」


「死……」


 どうやら戦えば、死ぬようだ。


 だが、戦わずとも死は訪れる。

 武器が使えないのだから。


 男は後退りしながら考える。


「なにか方法があるはずだ……」


 状況を打開するような……。


「痛っ」


 頭をぶつけた。

 手を後ろに回す。

 そうしなくても気づいていたが、そこにあるのは壁だ。

 もう逃げられない。


「ここが俺の墓場か……」


 諦めかけたつぶやきを漏らす。


「馬鹿なこと言わないで!」

「これ、受け取りなさい!!」


「痛っ!」


 頭上から妖精の声がして、なにかが降ってきた。


「なんだこれ?」


 四角いサイコロみたいな黒い物体。


「ソードに入れるの!!!」


「ソードに……入れる?」


「ガァー!」


 悩む時間はない。

 化物が走り出した。

 決着をつける気だ。


 男が慌ててサイコロをソードに近づける。

 すると、吸い込まれた。


「予備バッテリー確認」

「戦闘モードに移行します」


 怪しく光り輝くソード。

 以前はなかった光の筋が刻まれている。


「ギィー!」


 化物の爪が男の顔を切り裂かんとする。     

 しかし、その直前、ムラクモソードから光の弾丸が放たれた。

 それは的確に目の前の化物の体を貫いた。


「ガッ……!?」


 風穴を開けられて動きを止めた化物は、自分の体を見つめている。

 その穴からは、キラキラ光る青紫色の結晶が見える。


「あれがコアよ……」


 普段は一撃で消し飛ばすゆえ、見ることのない代物。

 今回はムラクモソードの狙いがずれたから、それとも巨大なコアだったからか、まだ残っている。


「早く、次を……!」


 男がとどめをさそうと、ソードを向け直す。


「グ〜……!」


 化物はそれをかわすかのように、高くジャンプした。


「あっ! くそっ!」


 上に逃げられた。

 天井には穴が空いていたのだ。

 奴は、三階に行ってしまった。

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交わる二人の冒険譚 砂漠の使徒 @461kuma

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