最終話 気持ち
仕事帰り、スマホが鳴った。画面に映し出された名前を見て驚いた。葵からだ。前に一度だけメールをしたが、特に用もなかったので既読無視をして以来だ。向こうからメールが来ることはないと思っていたのに。
・・久しぶり。今大丈夫?会って話したいことがあるんだけど・・
何だろう。確か葵には彼氏がいたはずじゃ。
・・今日は厳しいかな。明日の仕事終わりとかなら大丈夫・・
別に今日も暇なのだが、心の準備が必要だった。俺はあの日から葵を忘れたことはないし、葵のことを忘れさせてくれる人ともと出会えてない。友達でもいい、またあの頃のように話がしたい。笑い合いたい。そう思っていたから。
・・わかった。明日の20時に公園で待ってるね・・
会ってくれるんだ。よかった。
蓮とまた話せる。それだけで嬉しかった。
私は約束の30分前に公園に行った。ここは蓮ときたことがある。その時のことを思い出しながら公園内を散歩して、蓮を待った。
・・着いたよ。どこ?・・
・・滑り台のとこ・・
滑り台に向かうと照明があり、そこには懐かしい面影があった。
「よう、久しぶり」
「久しぶり。ごめんね、仕事帰りに呼び出しちゃって」
葵はそう言って笑った。本当に久しぶり、葵も、葵の笑った顔も。
「いいよ。葵から呼び出すってなかなかないし、何かあったのかなって思ったから」
自分からは会いたい、なんていう勇気がなかったから、葵から誘ってもらえて嬉しい。
暗闇から蓮の姿が確認できた。自然と体温が上がる。
会いたかった。話がしたかった。
「私、彼氏と別れちゃった。はは」
「え、まじ?なんで?」
伝えたい。あなたのことが忘れられられなかった、またあの頃のように2人でいたい。
「私・・・」
「・・・うん」
「・・ふ、振られちゃってさ」
だめ、やっぱり言えない。
「そうなのか。残念だったな。・・次、次頑張ろ。葵は可愛いんだからきっといい人が見つかるって」
なんでそんなこと言うの。
押さえ込んでいた感情が溢れ出でそうになるのを必死に止める。
「もう今は、恋愛とかはいいかな。今は仕事が大変だし。頑張らないといけないから」
嘘。嘘だよ。私は蓮とじゃなきゃだめなんだよ。でも、またあの日みたいに喧嘩して別れたら、それこそもう二度と会えなくなる気がして怖いの。だから言えない。
こみ上げてくる涙を私は一生懸命我慢した。
「そうだな。今はそっちの方がいいのかもな。俺もまだまだ仕事で覚えることあるし、お互い頑張ろうぜ」
そう言って蓮は笑っていた。私の、この世で1番好きだった、いや、今も大好きな笑顔で。
それからどれくらい話しただろう。付き合ってた時の思い出話や、最近会ったことなど色んな話をした。
結局、気持ちは伝えられなかった。でも、蓮とまた話せた。笑い合えた。それだけで十分だ。
蓮。私ね、あなたにことが好き。言葉にしなきゃ伝わらないよね。でもいいの、この気持ちは私の心の中にしまっておくから。いつか、別の恋人ができたとしても、これは過去の楽しかった思い出として残しておくから。
葵。俺、まだ葵のこと忘れられない。でも今の俺じゃ、またあの頃みたいに傷つけて、我慢ばかりさせるかもしれない。それは嫌だ。だから俺からやり直したい、だなんて言えない。あの頃、俺が葵のことをもっとわかってあげていれば、今も2人でいれたのかなって。思い出すたびに後悔が残っているよ。でも、残っているのは後悔だけじゃない。楽しかった、幸せだった日々もちゃんと心に残っているよ。
この気持ちを、いつか伝えられたらいいな。葵、君が好きだ。いっぱいいっぱいごめんね。
蓮。私はあの頃、あなたの心の中に住めたかな?忘れられない、楽しかった思い出として刻まれてるかな?忘れないでいてほしいな。
蓮。あなたのことが大好きでした。ありがとう。
枯れない思い @taitenyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます