25-3 テレパシー 〈完〉

 引越し作業が無事終わり、カズマが自分の部屋に戻ると何故か、ドッペルもついてきた。

 テレビを点けてバラエティ番組にケラケラ笑っている。


 ひとしきり楽しそうな笑いが引くと、ドッペルが少しだけ目を伏せた。


 満杯になったコップから水が滴るように、静かに言葉を零す。


「俺さ、自分が選んだことが正しかったのか分からないんだ……。

 正しい選択っていうのがあるのかがそもそも分かんないけど」


 カズマは先を促すように頷いた。


「でも、ちゃんと生きてみたいって思ってるから。自分の人生を」


 カズマはソファの上で片膝を抱えた。考え考え口を開く。


「……俺も今ちゃんと自分が大丈夫になってるのか分かんねえし、将来とかも決まってないから……すごいと思うよ、ドッペルは。よっぽどちゃんとしてる」


 ドッペルは得意そうに胸を張った。

 カズマは苦笑する。


「しまった、調子に乗らせるんじゃなかったな」


「ええー! いいじゃん! てか、カズマはもっと俺を労ってくれていいと思うけど!」


 ははは! と声を上げて笑った。ドッペルにも笑いが感染する。




 ――人の性格なんてその都度変わる。

 その人らしさ、なんて誰からも決められない。


 何かを経験する度に人は変わっていく。

 望もうが望むまいが、楽しいことも辛いことも自分を構成する要素になってしまう。


 だから大事なことは、本当に大事なものだけ握り締めていられるかなんだ。


 自分が譲れない欠片をどれだけ自覚し、大事に出来るか。

 これだけは失いたくないんだと意地を張っていられるか。




 笑い疲れて、引っ越しの疲れも相まって、いつの間にかカズマはソファで、ドッペルはカーペットの上でうたた寝をしていた。


 それぞれのスマホに付けられたメタル・クマのキーホルダーが見守るように、やれやれと呆れるようにその笑みを深めた、かのように見えた。




〈完〉




――――――――――――――――――


 最後までお付き合いくださり、誠にありがとうございました!

 拙い部分も多々ありましたが、最後まで楽しんで、悩み抜いて書けたことは良かったです。

 もし読者様が、この話を読んで良かった、と思ってくださったらこの上なく幸せです。





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ドッペルゲンガー製造計画 @kazura1441

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