25-2 テレパシー
*
ところ変わって、現在。
「でさ、カズマはスミレさんとは自然消滅?」
「そういう聞きづらいことよく平気で訊くよな、お前」
げんなりして眉を寄せたカズマは、自分そっくりの青年の頭を小突いた。
――ドッペルの出した結論は『整形手術はしない、そしてカズマと同じ生活圏で暮らしていく』だった。
ただし、カズマのドッペルゲンガーとして人生を歩みたいわけではないと言う。
カズマの近くで、カズマとは違う一人の人間として生きていきたいらしい。
カズマはその選択は、これからの人生もドッペルゲンガー製造計画に縛られることになるのではないか、と頷きがたかった。
けれどドッペルは否定した。
「ドッペル」と呼ばれる自分を生きていくと自分で選んだ、と言い張った。
最後に折れたのはカズマの方だった。
カズマは今、実家を離れて大学により近いアパートで一人暮らしを始めている。
……何故か隣の部屋にドッペルが越してきた。
ドッペルはニヤニヤを通り越してニタニタした笑顔で、
「俺たちの顔がそっくりだから驚かれるだろ? 言い訳考えないとね!
兄弟は無理あるっしょ? 取り敢えず従兄弟ってことにする?
どうする? あ、カズマは(以下略)」
ドッペルは眼鏡をコンタクトに変えて髪を焦げ茶色に染めた。
「ダークブラウンだっ」というツッコミがすかさず入る。
カズマは髪を短く刈り込んだ。
ドッペル曰く「野球部ほどじゃないけどサッカー部くらいは短髪」。
見た目が変わるだけでも大分印象が変わるものだ、と感心した。
「あとは名前どうするんだ?」
ドッペルの引越しの手伝いをしながら、なんとはなしに尋ねた。
「名前? ドッペルだよ。それで良くない?」
……流石にちょっと! ドッペルはその辺の感覚がズレている……。
「いや、大学とかで使えないって。つーか元々の名前は? 思い出したんだよな?」
ドッペルはブルドックのように顔を顰めた。
「カズマにはぜってぇ教えたくない」
何でだよ!
「……まあ、いいや。でもどうすんだ?」
ドッペルが教材一式を苦労して段ボールから出しながら、
「カズマが付ければ?」
「ちょっと他人事過ぎねぇ? 自分の名前だろ?」
「うーん……」
ドッペルは本気で興味無さげに段ボールを潰している。
カズマは溜息を吐いて、ドッペルの新しい名前を考えることにした。
左手で眼鏡の端をしばらく弄って思い付いた。
「……『奏叶』って名前はどう?」
段ボールの端にボールペンで書く。
ドッペルが「ん?」と首を伸ばした。
「これで『カナト』って読むのか?」
「『叶』は当て字だけど。
……『奏』は音楽を奏でる、で自分の思うとおりに自由に生きられるように、って意味かな。
『叶』は夢を叶える、の意味。
ドッペルはこれまであんま自由に生きて来たわけじゃないだろ……?
だから、せめてこれからは……」
言いながら気恥ずかしくなってカズマは口を噤んだ。
ドッペルは茫然と呟く。
「カナト……。俺の名前か……。夢盛り沢山な名前だなぁ」
「ご、ごめん! けっこう即興だった! もっとちゃんと考えるから、」
「ううん!」ドッペルが勢い良く首を横に振った。
頭もげるぞと注意したくなるほど。
「俺、カナトでいい。というかカナトがいい!」
心底嬉しそうに見上げてくる。
「い、いいのか? こんな段ボールに即興で書いた名前だぞ? しかも俺が付けたやつ……」
「うん!」
……まあ、喜んでるんならいいか。
カズマは食器類をまとめて抱える。
「なあ、ドッペル。台所の棚、適当に食器仕舞ってもいいか?」
「ちょっとカズマ! カナトって呼べよ!」
「ええー、今は誰も聞いてないんだからいいだろ、別に」
軽く受け流してカズマは手早く食器を仕舞った。
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