あわあわ★タイム
これは僕が社会人2年目の頃の話である。
当時僕はまだ営業をやっており、配属された営業店にいた比較的年の近い男の先輩二人に色々よくしてもらっていた。
仕事上で相談に乗ってもらうことはもちろん、プライベートでもよく遊びに連れて行ってもらうことが増えていた。
最初は飲みに行ったり、スノーボードに行ったりと比較的健全(?)に遊んでいたが、二人の本領が発揮され始めたのは、仲良くなって初めての夏に入ってからである。
営業研修と銘打って、ひたすらにナンパに連れて行かれるようになったのだ。二人の先輩は無類の女好きであり、距離が縮まったことで素を見せてくれるようになったのか、はたまた夏という季節が彼らをそうさせたのかは分からないが、とにかくそうなった。
僕は毎週末になると由比ヶ浜に連れていかれ、ビーチの端からスタートし、海に辿り着くまで受け持ちの横100メートルにいるすべての女性に声をかけるという地獄のような修行に付き合わされるのが日課となっていた。
そんなある日、ギラギラと日差しが照る夏の日、先輩の一人が言った。
先輩A「今日は昼からクラブに行こう。ただ水着は持ってこい。」
いつものように先輩の車に拾われ、言われるがままに着いていくと、そこはテラス付きでプールが併設された有名なクラブだった。
近くのパーキングに車を停めると、いかにもパリピなお兄ちゃんお姉ちゃんの姿がちらほら見えた。昼からでもクラブってやっているのか~と僕はよく分からない感心をしていた。
車の中で水着に着替えさせられ、スマホを防水のストラップに入れて首から下げてクラブの受付に着くと、受付のお姉さんに聞かれた。
お姉さん「あわあわパーティーにご参加ですか?」
きょうび小学生でもつけないような、地獄のようなタイトルのパーティーである。
先輩A・B「そうで~す!★」
地獄のようなパーティの一員になった僕は、できるだけ俯き加減で、上機嫌にカンナムスタイル(当時流行っていた謎の踊り)を踊る先輩二人の後を着いていった。
どうやら今日はテラス席しか使わないらしく、炎天下の中とりあえず三人分のマリブコークを調達してきた僕は、テーブルスタンドにコップを置きながら、イベントの趣旨について尋ねた。
先輩B「普通の昼間っからやってるクラブイベントだよ。あの辺にでっかい筒みたいなのあるじゃん?一定時間毎にあわあわタイムってのがあってさ。あそこからバブルシャワーが出るから、テンション上げてプールに飛び込んだりするんだよ」
僕はなるほどという顔をしながら、こいつらはどういう日常を過ごしているのだろうと思った。
そうこうしていると、人が次から次に来はじめ、女性の品定めをしている先輩を横から見ているとイベントが始まった。
謎の司会者がイベントの趣旨を説明すると、ゲストのDJが音楽を流し始めて、参加者が踊り始めると共に、あたりは喧騒に包まれる。僕が顔をしかめながらしばらくお酒を飲んでいると、気づけばいつも通り先輩たちがナンパに出かけていた。
30分くらい経ったころであろうか。司会者が叫んだ。
司会者「いくよ~!あわあわ★た~いむ!!」
そう、あわあわタイムである。
四方に置かれた謎の筒から大量のバブルシャワーが吐き出され、あたり一面真っ白になった。女性たちは黄色い悲鳴を上げ、それに乗じて男が女性に近づき、ひとしきり上手く盛り上がった後、首に下げている携帯ストラップを乱暴にプールサイドにぶん投げて、イチャつきながらプールに飛び込んでいく。
あわあわパーティは狂乱の宴である。
僕は泡が付くのが嫌なので、数名メートル四方だけ泡がかからない一角を目ざとく見つけ、イチャつく男女を恨めし気に横目で見ながらちびちびお酒を飲んでいた。
よく見ると先輩たちもちゃっかり女性のグループを捕まえ、イチャついているのが見えた。
司会者「あわあわ★た~いむ終了~!!」
ドンちゃん騒ぎも、その宣言とともに少し落ち着きを取り戻す。その時である。
???「・・!俺のスマホがねぇ!!!」
声の主を見ると、いかにもなおにいちゃんが一気に酔いがさめたような青ざめた顔でプールサイドを駆け回っている。
俺もだ!私も!!続けて周りの参加者たちも騒ぎ出し、一瞬にして辺りは先ほどとはまた違う騒然となった。
騒ぎの中、僕を見つけた先輩たちが完全に素面の顔で駆け寄ってきた。
先輩A「・・やられたな。プロの仕業だわ。」
先輩B「参加者全員いかれたみたいだ。グループの犯行らしい。」
俺ロッカーのカギもストラップ入れてたから、財布も出せねぇよ。そもそも車のキーもあの中だから、帰ることもできねぇ。先輩たちが口々にあーでもないこーでもないと言い合っている。
言うしかあるまい。
ぼく「あの~・・。たぶん会場中で僕だけ無事です。」
先輩達「おまえ何しに来たの?」
あわあわ・・。
あわあわ★タイム/完
おもしろい話 きゃぴ太 @capita
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