偽造パスポート

 これは、僕が大学2年生の頃の話である。

 

 免許を取り、夜のドライブという遊びを覚えた僕は、学校から帰宅すると連日友人と連れ立って夜のドライブに繰り出していた。

 

 当時色々なところに行ったが、1番よく行ったのは、お台場海浜公園だったと思う。

 

 ある日も、僕はいつものメンバー(高校時代の友人男女4人)で、いつもの如くお台場海浜公園に向けて車を走らせていた。

 

 深夜2時頃だっただろうか。お台場海浜公園に着いた僕達は、やることもないので、街中をぐるぐると周回していた。

 

(ウ〝〜ッ!!)

 

 その時である、車の後方からサイレンの音がしたと思うと、パトカーが影から飛び出してきたのだ。

 

 ぼく「やばい!」

 

 一瞬焦ってバックミラーをみたが、冷静に考えると何の交通ルールも犯していない。

 

 — 前の乗用車、ゆっくり路肩に車を寄せて停車しなさい。

 

 僕は車内をぐるっと見渡し、全員シートベルトしていることを確認すると、スピードを緩めて車を路肩に寄せた。

 

 続いてパトカーが停まり、中から若い警官と中年の警官の2人組が降りてくると、若いほうの警官が運転席の窓をノックして言った。

 

 警官「夜遅くにごめんね〜。何してるの?」

 

 僕は運転席側の窓を下げて答えた。

 

 ぼく「ただのドライブです。なんか交通違反しちゃいましたかね?」

 

 警官「いやいや。そうじゃないんだけど、ちょっと車内みさせてもらってもいいかな?」

 

 若い警官はにんまりした顔で言った。

 

 ぼく(あっ!これは…。)

 

 — 恐らく白い薬をキメていると勘違いされたのだろう。確かに深夜あてもなくお台場を車でグルグルしているのは正気とは思えない。暇でごめんなさい。

 

 若い警官は、中年の警官に目をやると、僕の車を顎でしゃくった。

 

 中年の警官は、キッ!とこちらを睨み付けると、ゆっくりこちらに来て車内を改め始めた。

 

 友人達はというと、車を降ろされ、暇そうに路肩の縁石に腰を下ろしている。

 

 中年の警官は、ダッシュボードの隅や、椅子の裏側まで10分程かけて調べ終えると、車内から出て、若い警官に耳打ちした。

 

 若い警官は一瞬難しい顔をして考えると、閃いた様に僕の顔をみて言った。

 

 警官「君の財布の中も、みせてもらっていいかな…?」

 

 どうだ。俺の目はごまかせないぞ?薄く笑みを浮かべたその顔はそう言っていた。

 

 ぼく(何も出ないんだよなぁ…。)

 

 僕は申し訳なりつつあったが言った。

 

 ぼく「はぁ、どうぞ。」

 

 若い警官は僕の手から財布をひったくると、レシート1枚1枚まで丁寧に確認していく。…当然怪しい薬など見つかるはずもない。

 

 徐々に顔付きが険しくなってきた警官は、少し焦った手付きで財布の中身を確認しだした。

 

 — はやく終わらないかな。

 

 その時ピタリと手を止めると、1枚のカードを摘み出して、目線の高さに上げるとニヤリとした笑みを浮かべて僕に見せた。

 

 俺の目に狂いはなかった。そんな目をしている。

 

 摘み上げたのは、数日前にバイトの先輩に借りた、美容院の会員カードである。常連さんは割引になるので借りていたのだ。

 

 警官「…これ、君の名前と違うねぇ?!!」


 警察は往生際が悪い。

 

 偽造パスポート 完

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