第15話


 ――やってしまった。


 やってしまった。やってしまった。やってしまった。やってしまった。やってしまった。やってしまった。やってしまった。やってしまった……。

 平日の昼前。

 大きなリュックを背負ったネイタン……卯月寧色うづきねいろは、昨日の夕方から一向に優れない顔色を取り繕ろうともせず、街を歩いていた。

 理由は明白。


 ――アタシ、レイさんにどう謝ればいいんだろう……。


 昨日、彼を誘って参加したLS杯終了後、現地解散を提案したのは寧色からであった。

 ホントはもし滞りなく大会が終わって、5位以上になったら本戦に出れたら、打ち上げを兼ねて夕食に誘おうと思ってたのだが、目標を達成したにも関わらず、その提案は実行されなかった。

 一瞬でも思考を止めれば、SNSで見た有象無象の呟きがフラッシュバックする。

『レイってあんな弱かったんだ』

『元プロのレイって武器制限かかった途端雑魚化wwww』

『Rayさん。もうちょっと良い所見れると思ったんだけどなぁ』

『レイはオワコン』


 ――――違う。

 

 違うのだ。

 レイさんは悪くない! 悪いのは全部アタシなのだ。

 アタシがもっと他の武器を使えれば……。

 アタシがちゃんと3人目も探していれば……。

 アタシがもっと強ければ……。


「う、ううぅ……うぅぅ……」


 考えれば考えるほど、己の弱さと未熟さを痛感し、涙が出てきた。

 関東滞在の為に借りていたウィークリーマンションで、散々泣きじゃくってロクに寝れてすらないのに、涙は止まることを知らない。

 憧れていた人Rayを自らのせいでけがしてしまった罪悪感が、重くのしかかる。

 自分はもうRayと気軽に話すことすら許されない。

 一刻も早く帰らなくちゃ。


「――――あれ、もしかしてネイタン?」

「へ?」

 

 街中で急にストリーマーとしての呼ばれて、寧色は驚きつつも声の方に振り向いた。

 そこにいたのはガタイの良いパリピな雰囲気を纏う金髪の男。

 あ、DQNだ。

 黒の革ジャンに黒マスク。耳には金色のピアスがバチバチに付いていて、姿を捉えただけで寧色はヒッ、と声を漏らしそうになった。

 第三者から見れば、紫髪と血のように赤いカラコンをした寧色も同類みたいなもんだが、寧色としては心底やめて頂きたい。

 アタシがあんな陽キャと同じ? 御冗談を。

 人を見た目で判断しちゃいけない。派手な髪もファッションもただ好きなだけ。趣味嗜好と本質は違う。むしろ寧色にとって趣味と本質は対極の位置にある。

 彼女が尊敬する配信者Rayに言わせれば、「外にも社会にも出ず、年がら年中引き籠ってゲームしてる馬鹿が、陽キャなわけねーだろ」。ヤバイ。考えるだけで辛くなってきた……。

 って、そんなこと考えてる場合じゃない。

 金髪が目に留まった瞬間、全力で俯いてしまった。相手の顔なんてロクに見てないし、怖くてもう目なんて合わせられない。逃げようかな。でも相手は自分がネイタンって知ってて話しかけて来たし、逃げたらSNSで叩かれるかも。ソレはソレで怖い。というか、怖くて身体が震える。不意に視界がグニャっと歪んだ。目から雫が溢れてくる。

 

「うっ、ううううぅぅぅぅぅぅ……」


 精神的に辛いバッド入ってる上にDQNに絡まれ、ついに嗚咽まで漏れてきた。

 いきなり泣き出した寧色に、話しかけてきた男も困惑を隠せない。ナンパだったら面倒くさい相手だと割り切って一目散にとんずらしてる。

 が、その男は、その泣いている寧色面倒くさそうな女にさらに一歩踏み込んで口を開いた。 


「どしたん? 俺で良かったら話聞くよ?」

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何故オレがeスポーツ大会に出なくちゃならん!? 夜々 @YAYAIMARU8810

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