ひかるひと、にてるひと

原多岐人

 


 偶然の再会。予期せぬタイミングで訪れ、それは往々にして望ましい場所と時ではない事が多い。戸田美恵子とだみえこもその例外ではなく、再会の相手――天野沙世あまのさよもそうだった。

 業務時間終了直前のハローワークの出入り口で、マスクをしていたにもかかわらずお互い気付いてしまった。無視すれば良かったのかもしれないが、スクールカースト中の下同士でつるんでいた過去もあり、お互い人嫌われないように細心の注意を払って生きてきたのでそれは出来なかった。

「あ、久しぶり……」

「久しぶり。同窓会以来、だっけ……?」

最初に声を発したのは美恵子で、最後に会った時間を思い出したのは沙世だった。

「まさか、こんなとこで会うなんて」

「本当に。まあこんなご時世だし、色々と大変だよね」

会話の始まりこそぎこちなかったが、お互い真面目に自粛して人との交流を経っていたこともあり、久しぶりの旧友との再会は少しずつ盛り上がりを見せた。


「私飲食だったじゃん?やっぱり厳しいらしくて、切られてさ。失業保険あるうちに決めようと思ってたんだけど、第3波来るし。もういよいよヤバいかなって」

「失業保険あるならいいよ、私自主退職だから退職金で今やりくりしてて。でも30過ぎると一気に減るよね、求人」

駅前のベンチに少し距離をとって座り、お互い前を向き、行き交う人々を眺めながら会話をする。もちろんマスクのままだ。

「……下世話なこと聞いてもいい?」

美恵子が躊躇いがちに聞く。

「……何?」

沙世もどんな質問が来るのかと少し怯えながら聞き返した。

「貯金とか、ある?」

「……残高は一応あるけど、貯金と呼べるほどの額は無いかな」

それを聞いた美恵子はホッとしたように息を吐いた。

「何かさ、よくアンケートとかで平均貯金額300万とか言うけど実際それって厳しいよね」

「うーん、どうなんだろうね。元々の給料がそこそこか、家賃とか固定費抑えるのが上手かったりとかすれば、まあワンチャンってところじゃないかな」

「じゃあ疲れたからって自炊も碌にしないで、勤務先に近いから家賃そこそこのところに住んじゃった私は論外ってことか……」

美恵子が明らかに凹んでいる。沙世は少し焦った。何か気を紛らわせる事が出来るものは、と見渡すと、目の前を派手なメイクと服装の少女達が通過して行った。

「うわ、すごいまつ毛……つけま何枚付けてるんだろ」

俯いていた美恵子も思わず顔を上げる。

ミルクティーベージュのロングヘアを緩やかに巻き、瞬きをすれば風圧を感じそうなまつ毛に彩られた目元、ピンクのウレタンマスク、そして蛍光色のトップス。そこにいるだけで存在感が眩しい。

「何か、安達あだちさんみたいだね」

「うちのクラスで一番派手だったよね」

2人の脳内には高校3年の時に同じクラスになった安達舞美あだちまみが像を結んでいた。小麦色に肌を焼き、制服のスカートは極限まで短く、目元は今見た少女に負けず劣らずのまつ毛で装飾していた。

「安達さん、今エステサロンの社長なんだってね」

「同窓会で会った時も、ちょっと落ち着いた感じだったけど、違うベクトルで輝いてたよね。眩しかったというか」

「あの頃、私たちもそのおこぼれに預かってたよね。クラス全体そこそこ明るい雰囲気だったし」

実際安達舞美は声も大きく、分け隔てなく人付き合いをして、勢いで色々引き受けてそれなりに盛り上げてくれていた。おそらくその辺りの経験も彼女の経歴を彩る糧になったのだろう。

「……ギャルの条件って何だろうね?」

不意に美恵子が素朴な疑問を口走る。

「この間どっかで見たけど浜崎あゆみが好きとかだった気が……」

「じゃあ私もギャル……?!」

「……好きなんだ、あゆ。でも確実に違う気がする。だって私たちは光らないから」

沙世が言いたいことは何となく美恵子にも伝わった。自分たちは安達舞美の様にごく自然に人の輪の中心にはなれないし、周りを照らすほどの明るさもない。

「まあせめて、自分の明日くらいは照らせる様にはなりたいよね」

「そうじゃなきゃ死ぬだけだしね」

何が可笑しいのかは分からないが、何となく笑いたくて2人は笑った。

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