第78話
すっかり脱力して言葉も発さない公爵は、マリアーナともども帝国兵に連行されて法院を後にしていった。そんな彼らの姿を見届けた後、ナナが私の元に近づいてきた。
「…」
「…」
言葉を発する前に、私はナナに向けて自身の右手を差し出した。ナナは一瞬だけ不思議そうな表情を浮かべた後、すぐに笑顔を浮かべながら自身の右手を差し出し、私たち姉妹は初めて握手を交わした。
――フォルツァ視点――
法院における公爵との戦いは僕たちの勝利に終わり、僕はその余韻に浸っていた。それは僕だけじゃない。ここにいる全員にとって忘れられない議会となったのだろう、法院議会は終了が宣言されたにもかかわらず、ほとんどの人たちが退席せずに周囲の人たちと会話を繰り広げている。それはまるで劇場や舞台が終わった後に、隣の席の人と互いに感想を話し合っているといった状況のようだ。
シンシアはずっと前に席を離れ、ナナさんと話をしている。僕は僕で自身の席を立ち、ある人物の元へと向かった。
その人物は笑顔で僕の到着を迎えてくれた。
「…お前にしては、時間がかかったな」
まったくこの男は。会う早々好き勝手な感想を言ってくれる。
「はいはい。けれど父上だったらもっと時間がかかってたと思いますよ」
僕もまた笑顔でそう言葉を返す。
「はっはっは。しかしまさか本当に、前に私に宣言した通り公爵を沈めてしまうとは、お前はやはり優秀だったな」
そう、僕がシンシアと父上を会わせるのを待ったのはこのためだ。シンシアとの婚約をすべての国民、貴族に認めてもらうには、タイミングが肝心だ。そこで僕が考えたのは、父上がすでに黒い噂をつかんでいた公爵を打ち取る事。帝國皇室のみならず、貴族にさえも矛先を向ける公爵の姿を皆に訴えれば、必ず皆が僕たちの味方をしてくれると僕は考えた。…けれど僕がこの作戦を選んだのは、決して僕が優秀からなんかじゃない。
「いえいえ。僕の隣にはいつもシンシアがいてくれましたから」
シンシアが隣にいてくれたからこそ、僕はここまで戦うことができた。…それにもはやこの場で公爵を打ち取ったのは他の誰でもなく、シンシア自身だ。僕は彼女のような人と、帝國の未来をともに歩んでいきたいんだ。
――――
その後、公爵はマリアーナともども法院にて有罪が言い渡され、二人とも貴族位は剥奪、帝國を永久追放となった。
ナナはマリアチ皇室長の計らいで調査団の所属となり、今はクロースさんにしっかり鍛えてもらっているらしい。彼女が帝国にとってなくてはならない存在となるのも、遠い話ではないだろう。
マナさんとシグナ君には、公爵がジクサー伯爵から奪い取った土地や資金が返還された。二人はそれらを元に貴族家を再建して、路頭に迷わせてしまったかつて臣下だった人たちを集めて伯爵の遺志を継ぐべく奮闘している。
そして私たちは…
「ちょっとレブちゃん!かがんでくれないと二人が見えないじゃない!」
レブルさんの背から、そう抗議の声を上げるミルさん。
「うるせえばか!」
そんなミルさんなどお構いなしに、その席を譲ろうとしないレブルさん。
「お二人とも、すっごく綺麗ねぇ」
両手をほほに当てながら、うっとりとした表情を浮かべるマナさん。
「お姉ちゃんおめでとー!」
小さな手を大きく振りながら、暖かい言葉を投げてくれるシグナ君。
「…ようやく、ですね」
「ええ。私はこのために頑張ってきたのですから」
拍手をしながら、互いにそう言葉を交わすマリアチさんとケーリさん。
「本当に、おめでとうございます」
二人の隣に腰かけるのはクロースさんと、もう一人の調査団員…
「…おめでとう、お姉様…」
私たちの婚約は帝國中から盛大に祝われた。そこにはもとより私たちの力になってくれていた人たちも、公爵派だった人たちも関係なく。
「な、なんだか恥ずかしいね…」
「これくらいで恥ずかしがってちゃだめだよ?これからもっとすごいことするんだからね?」
「へ???」
フォルツァは自身の手を私の頭に優しく添えると、そのまま自身の体の方へと力を込めた。
大きな歓声と拍手に包まれながら、私たち二人はあつい口づけを交わした。
義妹に婚約を押し付けられた辺境伯は、正体を隠した次期皇帝でした(修正版) 大舟 @Daisen0926
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます