第21話依頼完了と新居への引っ越し

 日没前を知らせる鐘が街に響き渡る。


 「俺たちが目標としてた所まではいけてないが。まぁ、最低限やらないといけない場所までは過ぎているから良いだろう、最初と言う事を除けばまずまずと言った所だな。

 よし、全員集まってくれ。コレから依頼完了のコインを渡す。それをギルドの受付に渡したら報酬金が渡される仕組みだから絶対に無くすなよ」


 そう言ってグズデスさんは集まった俺たちに表に冒険者ギルドのマーク、裏に何やら数字が記されたコインが渡される。


 「ちなみにコレを無くした場合は報酬金が支払われない上、紛失の賠償金を支払わないといけなくなるからな。その後、運良く見つかって届けたら賠償金の一部が帰ってくるがな。無くしたくなかったら紛失防止用に財布とかを買って貰ったら直ぐにその中に入れる様にしてとけよ」


 そんな怖いことを言わないでくれ‼︎

 訓練場では多少なりともお金は支給されていたが。それも新しい住居や家具を買い揃えたら、お金なんて直ぐに無くなってしまった。そんな状況で無くして賠償金が支払えず、最悪の場合借金しなきゃいけないだなんて冗談じゃ無いと思った。


 依頼を終え、コインを無くさない様に強く握り締めながらギルドまで歩いて帰った。騒がしい酒場を横目に眺めながら受付にまで到着すると担当者は俺が最初に声を掛けた受付嬢のアルマさんだった。


 「こんばんは、冒険者ギルドにようこそ。本日はどの様なご用件でしょうか?」


 そう言われたのでグズデスさんから渡されたコインをテーブルに置いた。すると察したかの様に笑顔を浮かべながら。


 「お疲れ様です、無事に依頼を終えられたのですね。

 依頼内容とコインの確認を行いますので少しの間お待ち下さい」


 そう言って何やら確認をするために席から外れた。少し待つと小さな袋を持って帰ってきた。


 「お待たせしました。依頼内容との確認が取れましたので報酬をお渡しします。

 本日の下水道掃除の報酬として銀貨2枚と追加報酬の銅貨50枚をお渡しします」


 あれだけの事をしてそれだけの報酬は少なくないか?そう思ってしまいアルマさんに言おうと思うと隣から怒声が響き渡る。


 「なんで臭い場所に行かせてあれ程の仕事をやらておいて。報酬が銀貨2枚とちょっとしか無いなのだ‼︎この少なさは明らかにおかしいじゃないか?

 俺の記憶が正しければ。今回の「下水道掃除」の依頼は基本報酬の銀貨2枚とは別に仕事の出来次第で追加報酬もあった筈だ‼︎まさかとは思うが銅貨50枚がその追加報酬とは言わないよな?規則ならもっと多く支払われる筈だぞ?」


 見ると一緒に仕事をしていたが名前の知らない冒険者だ、話しの内容を聞いてみると受付の人に対して支払われた報酬の少なさに対して抗議をしている。

 俺と同じ事を考えているからどんな風になるのかと思い少しばかり聞いてみよう。


 「はい、基本報酬の銀貨2枚とは別での追加報酬として銅貨50枚です。コレは暗黒大陸の冒険者規則に記載されているモノなので、それに先に報告の為に来られた現場監督員のグズデスさんたちからの報告によって換算して今回の報酬額となります。

 そして、冒険者規則については訓練場を出られたばかりの貴方なら分かると思いますが。それに今回の追加報酬に関しては、先程言ったグズデスさんたち監督員が進めていた範囲までを報酬とさせてもらっています。むしろ、監督員としてある程度補填しているものの本来なら見せくれた事で本来より報酬が少なくなったグズデスさんたちの方が貴方のように言いたい筈です。つまり本来であれば途中で動けなくなっていた方たちもグズデスさんたちと同じ報酬額となっているあたりかなり良心的であると思います」


 文句を言っていた冒険者は監督員を釣り合いに出された為あまり強く言えない様だ、だが彼も冒険者だ舐められたら終わりだと思ってあるのだろう。

 それに言動の端々から元々居た場所でも同じく冒険者をしていたのだろうか?受付への言葉も恫喝で支払わせるのでは無く、冒険者規則を元に要求する辺りかなり慣れているのだろう、常習的に行っていて、何かしらトラブルなんかを起こしてしまって此処に逃げてきたのかな?コレは流石に憶測になってしまうけど。


「なんだそれは‼︎俺は冒険者規則に習って要求しているんだぞ。おまえらギルドはそれを無視して不当に搾取しようとしているのではないのか?」


 聞いていると何かがおかしい?例えるなら(話しは通じているのに話しが噛み合っていない)そんな奇妙な感覚がある。

 受付の人も何かを感じている様で話しを進める様だ。


 「申し訳ありません。もしかしたらですが、私たち側とそちらで何か食い違いがあるかもしれません」


 そう言って話しを進めていくと、如何やらその冒険者の言っている冒険者規則は彼が元々居た場所での規則であり、暗黒大陸での冒険者規則とは全くの別物である事が分かった。

 そして、この冒険者は、過去にも似たような事で報酬とは別にギルド側の不備による賠償金を受け取っていたことが分かり。その場で確保されて拘留されたのに処分を言い渡される事となった。






 ギルドでの一悶着を見た後に、同じ様な事でギルドと揉めたいとは思えなかった小心者の俺は受け取った報酬を持ってナギが引っ越しの荷解きをしているであろう新たな拠点に向かった。


 俺たちが新しい拠点として選んだ住居は、冒険者通りの路地裏の元孤児院だった建物に決めた。

 此処に決めた要因として、やはり居住空間の広さと庭の大きさだった。今は2人だが、コレから仲間を増やすにつれ新しい居住を探すよりも最初からある程度大きな場所に住んだ方が安上がりになるだろうと考えての事だ。


 最初は城門還らずの森よりの住居にしようと思っていたが、住むにあたって、(門番や城壁や監視塔からの監視や巡察などを優先的に受けなければいけない)と言う条件があったためメイと相談して考えた結果候補から外す事にした。そんな事を考えながら移動していたら新しい拠点の前に着いた。


 平屋ではあるが空き家になる前が孤児院なだけあって、俺とメイの2人が入っても十分な広さがあり。更には井戸や元は倉庫として使われていたであろう小屋なんかもあり、小屋については改装してトルフとフングが住む家として活用するらしい。


  冒険者通りから路地に入って少し離れた場所にあるため。日当たりや利便性は良くないが、それ以外の要望は満たしていたから決めたが。こうして見ると冒険者になって色々と変わったなぁと感慨深くなってきた。冒険者になる前やなった直後の時は、受け取った報酬より出ていく金の方が多く。どうしたら出ていく金を少なく出来るのかを考えていたのに、今では借りてるとは言え拠点を買う為にお金を使う事に躊躇わなくなってきた


 「あっ、おかえりなさいロベルトさん。如何ですかこの家‼︎冒険者通りの裏ではありますけどとっても良い所じゃないですか?荷物については運送ギルドの方に手伝ってもらって何とか運び終わりましたけど。ロベルトさんの部屋は配置が分からなかったので、荷物を部屋に置いて直ぐに出せる様にしておきました」


 (メイは本当に気配りがきいていい嫁さんになる人だ)


 そう心の中で思う。訓練の時に、冒険者になる前の事を話していたけど。村の人たちは見る目が無かったようだな。

 もしあったなら、彼女の相棒たちの事があったかもしれないがそれを踏まえても一緒になった時の利が多いと分かるはずだ。


 まぁ、そのおかげで俺の生活が楽になっているんだから彼女の村の男たちには感謝しないとな。もし、メイが居なかったらこの住居も借りれなかったし、彼女が今日してくれていた事も全部俺がしないといけなかったから俺もだし彼女も互いに仲間になって良かったと思ってるだろう。


 (まぁ、そればかりは彼女から直接聞かないと分からないし。建前と本音が一緒かどうかは分からないけどね)


 そう思いながら俺は自分の部屋に行き荷解きに勤しむ事にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ふかそうに逝け~新人冒険者迷宮冒険録~ 丸金本舗 @marukinn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ