23 ブラック・アウト・コメット

「お前等のせいで俺たちの計画全部台無しだ......!」

「お前か?天体観測クラブのボスは?」

浅田さんはドアにゆっくりと手を伸ばし、鍵をかけて一言投げかけた。

「どこまでもムカつくガキ共だ........俺たちの邪魔をした事すぐに後悔させてやるよ!」

男の大声は鼓膜に突き刺さるようだったが、それよりも先に感じたのは視界の揺らぎだった。

「え?」

一瞬だった。あっという間に、視界が黒に染まる。

「おい.............札森!おい!」

頭が混乱していた。開けているはずなのに何も見えない視界。隣で呼びかけて来る声。そして

「ボサっとすんな!札森!」

前方から鳴る金属音。

「うわっ!」

つき飛ばされ横に倒れこんだと同時に乾いた音が二回、部屋に響き渡った。その音と充満する匂いはついさっき体験したものと全く同じだった。

「すいません........急に、何も見えなくて、浅田さんどうなって.........浅田さん?」

息を切らしながら前へ手を伸ばし、彼の腕を掴んだ時、

「イッ.....!」

彼の腕はべったりとした物で濡れていた。

「浅田さんまさか.......!」

「かすっただけだよ...........そこから動くなよ?奴から丁度死角だ」

「顔を出せ。一瞬で頭を撃ちぬいてやる。それともゆっくり拷問されながら死にたいか?まぁんな事したところで俺の怒りは収まらねぇけどなぁ」





浅田はゆっくりと目を閉じ、深呼吸をした。

外を走る車の音も、大人たちの鍵のかかったドアを叩く音も、隣にいる札森の呼吸音すらも彼の耳には入ってこなかった。

そうして目を開けると、物を貫通して光りが見える。浅田が10メートルほど先に見た光は、高頻度で点滅をしていた。この光とその点滅が何を意味するのか。理由はわかなかったが最初にこの力に目覚めてから彼には直感で理解できた。

「ビビってんのか?ヤクザにしちゃあ随分と小心者じゃねぇかよ」

「減らず口を..........!」

「札森........俺が合図をしたら........」

「え......?.........わかり......ました。」

瞬間飛び出し、前方へ走った。すぐさま後を追うように男も浅田へ銃を向け引き金を引く。止まったら死ぬ、その事だけを頭に浅田は走った。

発射された4発の弾丸は彼の動きを捉える事は出来ず、壁へと着弾した。彼はそのまま立ち止まったと同時に机を倒して遮蔽物をつくり、その場にかがんだ。

(2、3メートル.......いける!)

神経をとがらせ、もう一度前を向くと光はすぐそこだった。

「うっ.....!?」

何かがおかしかった。彼の視界は電源を抜かれたモニターのように一瞬で何も映らなくなった。

「これって.........まさか札森も.......」

「何も見えねぇだろ。怖いか?クソガキ。俺たちにケンカを売るようなマネさえしなければこんな事にはならなかったのになぁ!?」

「怒鳴るなようるせぇな........誘拐犯の犯罪者共が!」

暗闇に包まれた視界の中、ただ一つ彼の目に映る物があった。前方に見える光だけは、周りの暗闇と関係なく相変らず輝いていた。

「どいつもこいつも.........どうして俺をイラつかせるんだ......!使えねぇ下っ端も.......お前等ガキも.......あの白衣の連中も.......!」

互いに探り合うような空気の中、守は服を掴み、声を上げた。

「浅田さん!」

「よし........撃て!札森!」

その声を聴き守は立ちあがった。男の視線はそちらに移り、銃を構える。守は上着で顔と体を隠すようにし、腕に力を込めた。男が反射的に放った弾丸は、守の上着へと着弾したが、貫通する事はなかった。

「何!?」

男が引き金から指を離したその時だった。浅田は徐に立ち上がり、彼の目に映る光へ向けて銃を構え、引き金を引いた。彼の視界は相変わらず暗闇で、手に持っているはずの銃すら見えなかったが、それでも光へ向けて確かに銃弾を撃ち込んだ。

「うっ....!」

もう一度かがみ、何かが倒れる音がした時同時に視界も元に戻った。改めて冷静になり耳を澄ますと、前方でうめき声のような物が聞こえた。

(急所は外れたか........?)

その弾丸は殺意を持って放たれたものだったが、相手の生存がわかると浅田は心のどこかで安心していた。

「浅田さん!」

守は立ちあがり正常に戻った目で状況を確認し、浅田の方を見つめた。

「大丈夫だ札森!そこで待ってろ!」

浅田も立ち上がり、うめき声の方へ歩みよった。

「なっ.....!」

一瞬、視界が揺らぐような感覚を覚え、また視界は暗闇へ逆戻りした。

そのまま彼は右頬へ強い衝撃を受けた。

「このガキが.........よくも........よくも俺に!」

左肩から血を流し、男が立ちあがった。

「浅田さ.....」

「動くな!............言いてぇ事はわかるな?」

男は銃を浅田の方へ向けて声を上げた。

「お前等の努力はよーくわかったよ.......ガキ二人がよくここまで俺を追い詰めた」

男はゆっくりと語りながら浅田の手を踏みつけ、そのまま腹を蹴った。

「でもなぁ........大人を舐めちゃいけねぇよ.........俺はお前らを痛めつける程度で許してやるつもりだったんだぜ?それがこのザマだ」

必死に呼吸をする浅田を更に踏みつけ、額に銃を向ける。

「あ........がっ.........」

「俺を怒らせた罰だ.......」

男は

「相方もすぐそっちに送ってやるよ」

指を

「仲良くあの世で後悔しな......」

引き金へかけ



「やめろぉぉぉ!!!!!!!!」



「.........?」

男は勝ち誇った表情で引き金を引こうとするが、銃弾は発射されない。

「なんだこれ......どうなって.......」

「うっ......!」

浅田は男の足を掴み、そのまま転ばせて喉元へ腕を伸ばした。

「がっ.........はっ..........」

肘で喉を押さえつけ、力を込める。やがて男の抵抗に力がなくなった頃、腕を離しその場に座り込む。

「見える.........はぁ........こいつ気絶してんのか.........そうだ札森.......」

浅田は立ちあがり、辺りを見回すと、拳銃が空中で静止していた。

「これって........札森?」

後ろの方を見ると、守が立ったまま、鼻血を出していた。それよりも異常だったのは

「札森........その目........」




彼の眼球は青色に染まっていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブレインコメット @CHNO3539

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ