22 死と予感
「立てるか?札森?」
駆け寄って来た浅田さんに肩を借りて立ち上がる。
「もうバテちまったか?本番はこっからだぜ」
「まだまだ........!」
軽口を交わしながら体幹を入れ直し、口元の血を手で拭った。
「札森お前.......吐血!?」
「何言ってんすか口切っただけっすよ.......行きますよ!」
「俺はここでこいつらを縛っておく。悪いが先を急いでくれ」
「はい」「おう!」
そう言って石田さんは倒れている二人の方へ歩み寄って行った。
「っ........!」
「お前......大丈夫か?」
「軽傷です.......心配ないっすよ........」
そうは言ったものの、手足で鈍い痛みが鳴り止まなかった。
「ヤバかったら言えよ......命掛かってんだ。大事な時にヘバったら取り返しがつかねぇぞ」
「わかってますよ.......」
足を速め、ビルの中へと入ってゆく。
「どうです?見えますか?」
「エレベーターは無理だな。ご丁寧に全階層に二人ずつだ。となると........」
浅田さんの力を頼りに、見つからないよう二人で反対方面へ静かに移動した。
「こっちは階段か。上に一人.........動かねぇ。見張りか?」
「一人なら助けを呼ばれなきゃ............」
「賛成。ぱぱっとやっちまおう」
しゃがみながら階段を上って行き、上へ視線を向けるとそこには確かに男が一人辺りを見回していた。
「お前等.....!」
目と目が合った瞬間だった。浅田さんは素早く掴みかかり、足をすくませあっという間に大の大人を組み伏せてしまった。
「ちょっと尋ねてぇんだけどよ........お前等の頭はどこにいる?」
彼はそのまま口元を抑えながら冷たい目つきで質問を投げかけた。
「誰がてめぇみたいなガキに.....!」
「俺の知り合いによぉ.......お前等と似たような人がいたんだけどさぁ......小指が無かったんだよ。お前もお揃いにしてやろうか?」
とても17とは思えないような気迫に、その男は恐怖を隠しきれていなかった。
「駐車場の二人組さぁ.......仲間だろ?片方の抵抗があまりに激しかったからよ......首の骨を折ってやったよ」
「わ.....わかった!5階!5階の会議室にいる!それで十分だろ!」
「ご協力どうも」
手足を縄で結び、口をガムテープで押さえ近くにあったトイレに放置した。
「なんか中学の頃思い出すなぁ」
浅田さんは笑いながらそう言った。
「まさか本当に........」
「殺してねぇよ。俺はまだ潔白だ!」
階段へ戻り、また上ってゆく。
「5階......最上階か......」
もうすぐ黒幕に会える。そう思いながら黙々と階段を上っていたその時だった。
「札森ストップ!」
「え?」
浅田さんの声が響いた瞬間、二人の人影が目の前にあった。
「いたぞ!」
呆気に取られているうちに、後ろから浅田さんが飛び出し、片方の顔面を思い切り殴った。その光景を見ていると浅田さんは振り返り
「札森後ろ!」
振り向くと男は懐に手を伸ばし、何かを取り出そうとしていた。男の顔には緊張と恐怖が微かに浮かび上がっていた。どこかで見たことある光景だった。そう。これはまるで仁侠映画の..........
「銃を持ってる!」
ハッとした。頭の中が真っ白になり、何をすればいいのかわからなかった。これから自分はどうなるのか。浅田さんはどうなってしまうのか。撃たれたら痛いのか。そしてやはり自分はここで.........。時間の流れが不思議と遅く感じ、いくつもの考えが一瞬のうちに脳裏に浮かび上がって来た。だがやはり........
「死んでたまるか!」
一番に頭に浮かんだのはこれだった。片腕で顔を防ぎながら服を掴み、力を込める。初めてではない不思議な感覚に身体が包まれたのを確認して歯を食いしばる。
直後、前方から耳を劈くような乾いた大きな音が3回鳴ったの聞いて、力を抜く。
前へ踏み出し、左手で銃を払いのけ、そのまま鼻をめがけて右の拳を伸ばす。
「熱っつ!?」
胸から三つ、煙があがっているのを見て急いで払う。ふと前を見ると鼻血を出しながら床に落ちた拳銃を拾おうとする男の姿があり、急いで拳銃を拾い上げた。
「ったくイカレてるぜお前」
「あんたにだけは言われたくないですね」
「どういう意味だそれ.....追手が来る!急ぐぞ!」
二人の男を後に、足を速める。
「あったぞ!ここだ!」
立ち止まった浅田さんの前の扉には会議室と書かれていた。
「覚悟は出来てるな?」
ドアノブに手をかけた時、浅田さんは言った。
「そうでなきゃここまでこれませんでしたよ」
固唾を飲み込み、扉をあける。中は至って普通の会議室だった。
「来たかクソガキ共........こっちの計画悉く潰しやがって.......!」
物凄い剣幕で睨みつけて来る大柄な男が居る事を除いて。
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