何かこの世ならざるものが見えてしまう主人公が、小さな神社へと不思議な何かを見に行くお話。
現代ファンタジー、といえばそうなのですけれど、でもその語から想像されるであろうものとはちょっと一線を画す印象のお話です。
日常の由無し事を綴った現代ドラマのような、あるいは怖くないホラー(ホラー的な形式をしているけれど、でも怖さ以外のところに面白みがある)とでも言うべき物語。
語り口から滲む落ち着いた手触りと、リアリティのある細部の描写が、自然に興味を惹きつけてくれるところがとても魅力的でした。いつの間にか話に乗せられちゃう感じ。
現実には到底ありえないはずの、不思議な霊的体験を描いたお話であるにも関わらず、まるでエッセイか体験談を読むかのような感覚で(=身近な現実の出来事のように)読めてしまうところが好きです。
不思議現象以外の部分がとてもリアルというか、人物造形や展開に「物語的なご都合」のような気取りがなく、ストンと飲み込まされてしまう感じがものすごく好みでした。
単純に主人公に共感できる(それも例えば「感情を揺さぶられる」といった大袈裟な意味ではなく、小さな気持ちのありようとして)ところも楽しいです。
モチーフや形式はホラーっぽいはずなのに、でも全然違う種類の面白さを与えてくれる、その読み口がもう楽しい作品でした。