第二十七話 殺人鬼の本気
〜箱人、技紹介のコーナー 〜
本編が長くなってしまったので次話に回します。
本編
「……気をつけてください!あいつの箱は大きさを自在に変えられる鉄球です」
鴉羽はがレクターの能力について桐生達に共有する。
その能力の恐ろしさは言わずとも鴉羽の折れた左手の指と目の前で倒れる大木が物語っていた。
「鴉羽、大丈夫なのか?」
天城が戦いに参加しようとしている鴉羽を心配する。星乃も心配そうに鴉羽を見つめている。
「大丈夫です。茜先輩のお陰で多少痛みは治りました。それに幸いな事に利き手は無事なので」
鴉羽は右手で刀を振って見せる。笹原を救出出来てないこと、そしてレクターの実力の底が知れない以上無理は承知の上であった。
「うだうだ言ってないでとっとと始めようぜ!」
鴉羽達の思惑など知ったことではないと言うようにレクターが声を荒げる。手にはビー玉サイズの鉄球を溢れんばかり持っており、周囲に拡散するように弾いたのであった。
『
無数の鉄球が一斉に鴉羽達を襲う。
(くっ……! この人数守れるか……?)
鴉羽が黒い闘気を纏った両手を構え、意識を集中させる。
「……大丈夫、私に任せて」
その声に気づくと鴉羽の前に桐生が立っていた。桐生は辺り一面に種のようなものを蒔いて、すぐさまタクトを振った。
『
桐生がタクトを振った瞬間、突然変異でも起こったように種から太い幹のようなものが飛び出し、みるみる大木となっていく。それは先程鴉羽を守った木と同じもので、みんなを守るように何本も敷き詰められるように生えてきたのだった。
歪に敷き詰められた木が鉄球の雨を防ぐ。攻撃が止むと役目を終えた木はみるみる縮んでいき、再び種へと戻ったのであった。
「ククっ てめえも面白い能力を持ってるな」
「そんなこと言っている暇あるかしら?」
攻撃を止められた事に満足そうに笑うレクターを桐生が牽制する。
『
桐生がタクトを振るとレクターの足元から突然、木の根が飛び出したのだった。素早く伸びた根は蔓のようにレクターの両足に複雑に絡みつき、レクターをその場に縛りつけた。
「今よ!」
桐生の合図と共に天城、牛島、八雲の3人が動くことの出来ないレクターに向かって走り出す。
「舐めた真似を……」
レクターは向かってくる3人に野球ボールサイズに膨らませた鉄球を思い切り投げつけた。
『
飛んでくる鉄球を見て、3人の中で1番先行していた八雲が拳を構える。八雲はカウントのついた左手に白いオーラを纏い、鉄球目掛けて振りかざした。
『インフィニティ・ゼロ』
八雲の拳が当たった瞬間に鉄球が消滅する。それと同時に八雲の左手のカウントが100から60となった。
「何……!?」
レクターは鉄球を消された事に僅かに動揺を見せる。その隙に天城と牛島が更に距離を詰め、足を取られたレクターに同時攻撃を繰り出した。
『
『ポップゴング』
天城は両刃を放ち、牛島は空気を一気に放出してハンマーを振りかぶる。
「悪くない連携だ……だが残念だったナァ……!」
その場に金属同士が激しくぶつかりあう甲高い音が鳴り響く。
天城と牛島の攻撃はレクターが両手に生み出した大玉サイズの巨大な鉄球によって防がれたのであった。
(くっ!? 僕たちの攻撃でびくともしないなんて……)
牛島は渾身の一撃を食らわせた筈なのに相手を倒すどころか一歩も動かすことすら出来ない事に驚愕する。
「いや……まだだ!」
天城の声と共にレクターを巨大な影が覆う。
正体を確かめる為、レクターが上を見上げると巨大な水で出来たイルカが宙を浮いていた。
イルカはそのまま空中を泳ぎレクターの頭上を通り過ぎる。その先には眠らされた笹原の姿があった。
「チッ 狙いはそっちか!」
意図に気付いたレクターは巨大な鉄球に身を隠したまま、ボウリングサイズの鉄球を生み出し、頭上のイルカ目掛けて投擲した。
『
高速で飛んだ鉄球はイルカに直撃する。イルカの体は鉄球に貫かれて弾け、辺り一面に水が飛び散った。
桐生から始まった連携攻撃はここに潰えたかに思われたがまだ終わりではなかった。
飛び散る水には1つ黒い塊が混ざっていたのだ。それは人間のような姿をしており、その中から瞬間移動した鴉羽が出てきたのだった。
鴉羽は目の前に倒れる笹原の体を抱えて、大きく旋回しながら桐生達の元へ走る。
(クソっ あのイルカの中に人形を仕込んでやがったか!)
レクターは逃げる鴉羽の側面に鉄球を打ち込む。しかし、鉄球は再び生えてきた木に防がれるのであった。
鴉羽は木に守られつつ、何とか笹原を連れて桐生達の元に戻って来ることが出来たのであった。すぐさま藤崎が笹原の容体を調べる。
「大丈夫。強い薬で眠らされてるだけね」
藤崎は笹原の命に別条がないことを確かめる。それを聞いた星乃はホッと胸を撫で下ろした。
「とりあえずここまでは上々。茜ちゃんと優希ちゃんはその子を連れてすぐに離脱して。後の子達も順次離脱を……」
桐生がそう言いかけた途端、遠くから大きな高笑いが聞こえて来る。
「クククっ 離脱? おいおい随分とコケにしてくれるじゃねえか!」
その正体は言うまでもなくレクターであった。笑い声とは裏腹に額には青筋を立て、苛立ちを隠せないという表情をしている。
血湧き肉躍る闘争を求めていたレクターにとって、人質と共に逃げる選択を考慮していた鴉羽達はとても許せるものではなかった。
「逃がすわけがねえ……テメェらまとめてぶち殺してやるよ!」
怒りを露わにレクターはビー玉サイズの鉄球を指で弾く。球は今までとは比べ物にならない速度で加速し、桐生目掛けて飛んでくる。
木を成長させ防御していては間に合わないと瞬時に悟った桐生は並外れた動体視力で球を見切り、頭を屈めて回避する。しかし、その時桐生に1つの疑問が湧き起こる。
(おかしい……何故今になってこんな単調な攻撃を……?)
鉄球を回避した桐生の視線の先には邪悪な笑みを浮かべるレクターの姿があり、手につけた指輪は青白く光っていた。
(しまった!? 罠ーーー)
桐生が気付いた時には全てが遅かった。桐生の体は強い衝撃を受けて宙に吹き飛び地面に落ちる。倒れた桐生はまるで壊れた人形のようにピクリとも動かなくなった。
「桐生さん!」
藤崎が悲鳴に近い声を上げる。桐生は既に意識がなく、頭からは夥しい量の血が溢れ出している。
(迂闊だった……あいつの今までの所作にすっかり騙されていた……手を離れた後でも鉄球の大きさを変化出来るなんて……!)
鴉羽は桐生の側に転がった巨大な鉄球を見て自身の浅はかさを恨む。レクターは桐生に避けられた直後に鉄球を一気に肥大化させることで桐生の背面に鉄球を直撃させたのであった。
「クククっ まずは1人。次は……あいつが邪魔だな」
レクターは次に桐生に応急処置を施そうとしている藤崎に狙いをつける。レクターは藤崎を視界に捉え、不意に青白く光る拳を握った。
『
周囲に転がる大小様々な鉄球。それらから藤崎に向かって鎖のようなものが伸びる。
「え……」
「茜!」
鎖が藤崎の体に到達する直前、天城が身を挺して藤崎を庇ったのだった。
「陽介!?」
突き飛ばされた藤崎が天城の方を見ると、天城の両手両足には枷のようなものが取り付けられており、鎖の先にはレクターが投擲した無数の鉄球が繋がれていたのだった。
天城は何とか枷を取り外そうと試みるがびくともしない。
「違う奴がかかったがまあいい。それなら次はお前だ……その状況では逃げられまい」
レクターが天城に向かって鉄球を構える。天城は鉄球の重みで体を全く動かすことが出来ず絶体絶命のピンチであった。
「させるかああああ!」
攻撃を阻止するため牛島がレクターに突撃し、全力でハンマーを振り下ろした。
「ククっ 通用しねえよ」
牛島の攻撃は目の前に現れた巨大鉄球にまたしても阻まれた。
「お前も邪魔だ」
レクターは瞬時に巨大鉄球をボウリングサイズの鉄球に縮小する。力を加えていた鉄球が無くなり体制を崩す牛島に、その隙を狙ってレクターは持っていた鉄球を振り下ろしたのだった。
「ぐあああああああ!」
「大五郎!!!」
骨が砕け折れる音が鳴り、牛島の絶叫が辺りをこだまする。牛島は右肩を抑えて悶絶し、その場に倒れたのだった。
「これで2人…… そしてお前で3人目だ!」
レクターは間髪入れずに牛島の肩を砕いた鉄球をそのまま、天城に向かって投擲した。
「茜!俺達のことはいい!残ったみんなを連れて早く逃げーーー」
天城は枷のせいでなす術がなく、腹に鉄球を受ける。その一撃はあまりにも重く、血を吐いた天城はその場に倒れたのであった。
箱の中身は何だろな 赤石雀平 @ikameshi
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