第二十六話 鉄球
〜箱人、技紹介のコーナー 〜
●天城陽介 箱:伸縮自在な黄金の両刃槍
『
全身を高速回転させながら武器を振うことで全方位からの攻撃を削ぐ防御技。元々は神堂の剣技の型の1つである。伸ばす能力と組み合わせることで自分を中心にした超広範囲を巻き込む攻撃技へと昇華した。但し、広範囲を隙間なくカバーする回転を維持する必要があるため、体への負担は大きい。
本編
研究棟前のベンチで寝かされている笹原。そして、その身を巡って対峙する鴉羽とレクター。遂に凶悪殺人犯レクターとの闘いの火蓋が切って落とされた。
(あれが本当にレクターの箱なのか……?)
レクターの全ての手の指にはめられた指輪。確かに箱から出てきたものであったが、鴉羽には疑問が残る。何故なら天城から聞かされた情報だと、レクターの被害者の死因は全て鈍器のような物での撲殺だからだ。
(あの指輪に一体どんな能力が………)
鴉羽は出来る限り距離を取り、相手の出方を慎重に窺う。
「ククっ そう警戒するな……すぐ思い知らせてやる」
そう言ってレクターが指を鳴らすと、突然、指輪から銀色に光って見える小さな球が出現した。レクターはそれを見せつけるように宙に投げ、キャッチしてみせる。
(何だ……あれは? ビー玉……?)
「ふざけた能力だろ。この球が俺の箱ってワケだ」
鴉羽の戸惑う様子にレクターは愉快そうに再び球を宙に投げた。そして、不意にその球を鴉羽目掛けて指で弾いたのだった。
『
球は指で弾かれただけとは思えない速度で鴉羽に襲いかかる。
「っ!?」
意表を突かれた鴉羽であったが咄嗟に横に避け、ぎりぎりで球をかわす。まるで弾丸のように撃たれた小さな球はそのまま鴉羽の後ろの研究棟の壁に着弾してめり込んだのだった。
音を立てて崩れる壁の中から、その元凶たる球が鴉羽の目の前を転がる。その球は近くで見ると暗い銀色をしており、ビー玉というよりは鉄球であった。
(鉄球を生成する能力………)
「おいおい、まだ序の口だぜ。これからたっぷりと喰らわせてやるよ!」
レクターは苦しそうに息をする鴉羽を見て不敵な笑みを浮かべ、再び指を鳴らした。今度は両手から何個も球が溢れ出す。
『
それらの球を鴉羽に向かって容赦なく連続で指で弾く。球はさながらマシンガンのように鴉羽に襲いかかる。
(っ数が多い!?避けきれない…… !)
鴉羽はすかさず刀を地面に刺し、両手を前に構える。
『〜
球を防ぐ為、鴉羽は黒い闘気を腕から空中に流し、亀の甲羅にも見えるドーム状の壁を展開した。
「ほう……?」
展開した壁には次々と雨のように球が浴びせられていく。
(頼む! もってくれ……!)
鴉羽は両手に意識を集中させ必死に耐え忍ぶ。
やがてこれ以上は無駄だと悟ったのか、ピタリと攻撃が止まった。技を解除した鴉羽の目の前には受けた無数の鉛玉がそのまま転がっている。
「移動に妨害、そして防御にも使える能力か……退屈しのぎにはなるか?」
最初に笹原を救出した時に、レクターには黒人形による瞬間移動と黒鳳蝶による妨害を見られてしまっている。レクターは完全に鴉羽のことを舐めているが、能力が割れている以上、その油断につけ入る手段が不足していることは確かであった。
(泣き言は言ってられない……今出来る最大限をやるだけだ)
ー来い! 『黒人形』
鴉羽が黒い闘気を纏う刀を振うと2体の黒人形がその場に誕生した。
「ククっ その人形をこっちに放り投げてまた奇襲でもしてみせるか? その前に蜂の巣だけどナァ」
「そうなることは分かってる……だからこうするんだ!」
『〜纏〜 霊亀』
鴉羽は2体の黒人形も包み込むように再びドーム状の黒い壁を展開し、その状態のままレクター目掛けて走り出したのだった。
鴉羽の狙いは球をぎりぎり耐え切れる壁を持ってレクターに接近し、こちらの間合いに入れ、黒人形と合わせて隙を作って反撃することであった。
「クカカっ 面白え!打ち砕いてやるよ!その壁も…お前の心もナァ!」
迫り来る甲羅を前に突然レクターの指輪が青白く光る。その光を合図にレクターが手に持っていたビー玉程の鉄球がまるで魔法でもかかったかのように膨張していき、野球ボールサイズの鉄球へと変化したのだった。
レクターはその膨らんだ鉄球を大きく振りかぶり、甲羅目掛けて全力で投擲した。
『
大きな体躯から繰り出された豪速球は距離を詰めていた鴉羽に避ける暇を与えず、展開していた甲羅に直撃した。
「ぐああああっ!?」
甲羅は鉄球に貫かれて粉砕し、鴉羽はその場に左手を抑え蹲る。抑えていた鴉羽の左手は人差し指と中指が逆方向に曲がっていた。
「所詮はガキか……無様だな」
レクターは激痛に悶える鴉羽を嘲笑い、先程よりも更に大きい、ボウリングの球くらいの鉄球を手の平に作り出した。
「これで終わりだ……安心しろそこの女にも後を追わせてやるからよ」
痛みで意識が朦朧とする鴉羽にレクターが鉄球を投擲する。
『
全てを破壊し尽くすような巨大な鉄球が鴉羽に向かって高速で飛んでくる。最大の脅威が目の前にまで迫っているが、鴉羽の体は痛みのせいか、恐怖のせいか思うように動かない。
(こ…ウ………ナッタ……ラ……)
鴉羽が決死の思いで刀に力を込めた瞬間、突然地面から巨大な木が生えてきた。木は鴉羽を護るように聳え立ち、代わりに巨大な鉄球を受けたのだった。
激突した衝撃は地面を揺らし、辺り一面に伝わる。鉄球の威力の方が勝り、木はへし折られたが球の軌道は右に逸れ、鴉羽への直撃を防いだのであった。
「偽騎士共に袋にされてくたばったかと思ってたが案外やるんだな」
レクターの視線の先には頭に包帯を巻き、タクトを構えた桐生の姿があった。
桐生がタクトで木を操り鴉羽の危機を救ったのであった。
「鴉羽くん!」
「星乃……さん……」
鴉羽の元に真っ先に星乃が駆けつける。その後ろにいた藤崎はすぐさま注射器に痛みを抑える薬を調合し、鴉羽の手に打ったのだった。更に天城、牛島、八雲と続々と仲間達が駆けつける。
「フウマ達はしくじったか。まぁ最初から期待はしてなかったがな」
レクターはフウマ達の働きに悪態を吐く。しかし、その表情はこの多勢に無勢の状況を待ち望んでいたように見えた。
「凶悪殺人犯レクター!お前をここで捕まえる。覚悟しなさい!」
桐生の声に合わせて天城達が一斉に武器を構える。
「クククっ ようやく本気で暴れられそうだ。今度こそ俺を退屈させてくれるなよ?」
レクターはぐるりと肩を回し、ニヤリと笑う。その目は獲物を狙う猛獣のように鋭く、より一層凄みを増していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます