第二十五話 参ノ型

〜箱人、技紹介のコーナー 〜


●セイメイ 箱:爆発する紙が貼り付いた扇


ばく紙吹雪かみふぶき

 細かく切った紙を吹雪のように舞わせ、爆発させる技。1つ1つの爆発は小さいが、広範囲一帯を同時に爆発させることが可能である。



本編


 風舞う大地に鳴り響く剣戟。


 ここが学校であるとは思えないほどの激闘が天城とフウマによって今まさに繰り広げられていた。


 『みだ風車かざぐるま


 フウマは器用に木を飛び移り、上空から風を落としていく。


 「遠距離戦闘は俺の十八番なはずなんだがな……!」


 しきりに降り注いで拡散する突風の攻撃を天城は槍の伸縮を使ってひたすらかわす。


 『双蛇そうじゃ刃刃はじん


 天城も突風の合間を縫って槍を放つ。しかし、伸びる槍はフウマの小手に簡単に打ち払われた。天城は攻め手を緩めず、再度槍を放つ。


 「何度やっても同じことだ」


 フウマが再度伸びて来る刃を打ち払おうとした時、槍先の軌道が急に変化した。

 

 『双蛇そうじゃ睨牢げいろう


 伸びた槍はフウマの足にぐるぐると巻きついた。


 「そこから引きずり落としてやるよ!」


 天城はそのまま槍を大きく振りかぶり、地面に振り下ろす。


 「なるほど……なかなかやるな」


 フウマは一切動じることなく、地面に叩きつけられる寸前に左手から真下に風を噴射することで体を風圧で浮き上がらせ、地面への激突を免れた。そして、空中に僅かに浮き上がった状態のまま残った右手で天城に向かって風の刃を飛ばした。


 『断風刃たちふうじん


 天城は間一髪のところをジャンプして回避する。しかし、その行動が想定済みだったのかフウマが風に乗ってジャンプした天城の懐まで迫って来ていた。


 「ぐっ!?」


 フウマは小手を振りかざし渾身の一撃を天城の腹にに叩き込む。何とか槍で防いだ天城であったが、空中では踏ん張りが効かず吹き飛ばされ、そのまま背後にあった木に激突する。


 「いってえ………」


 天城は背中を強く殴打し悶絶する。その衝撃でフウマの拘束も解けてしまった。


 「陽介、お前の力はそんなものか?」


 解放されたフウマは余裕の笑みを浮かべている。


 挑発を受けた天城は痛みをこらえて何とか立ち上がり、もう一度槍を放った。しかし、フウマは嘲笑うかのように風を制御して自在に空中を飛び回り回避する。


 (くそっ こんな所で足止め食らってる場合じゃないってのに!)


 時間的に鴉羽が研究棟に間に合っていれば既にレクターとの戦闘に入っている筈であった。他の仲間達の状況も今の天城には分からない。


 焦る気持ちが天城の判断を鈍らせ隙を生む。


 『断風刃たちふうじん


 空中を飛び回って槍からの回避に徹していたフウマが再び天城に突貫し、発射せずに右手に留めていた風の刃を振りかざし天城の右肩を切り裂いたのだった。


 「ぐあ……!」


 天城の肩から血が溢れ出す。


 (馬鹿が!何をやっているんだ俺は!?)


 相手の挑発に心を乱された挙句、攻撃をまともに受け、怪我まで負ってしまった。


 「お前はもっと強き者だと思っていたがどうやら期待外れだったようだ」


 肩を抑えて立ち尽くしている天城にフウマは残念そうな口調で言い放つ。


 「その程度ではレクターの元に行っても無駄だ。誰も守れないままここで死ぬがいい!」


 そして、トドメを刺すべく高速で空高く飛び上がった。右手には先程天城を切り裂いた風の刃を構えている。


 (誰も守れないか………)


 天城は星乃優美の死を思い出していた。


 (確かにそうだ… 優美を救えず、もいなくなって、あの頃の俺は完全に心が折れてしまった……… でも……茜が…大五郎が…そして先生が俺を再び立ち上がらせてくれた!)


 天城は過去の神堂とのやりとりを思い出す。


 「天城、お前に私の技を授けよう」


 「先生の……? でも俺の武器は刀じゃ……」


 「この技は刀でなくとも出来る。修得するのは簡単ではないがな」


 「是非教えてください……!」


 「分かった。お前に授けたい技は参ノ型……全身を高速回転させながら武器を振るい、全方位からの攻撃を削ぐ本来は防御技だ。

 だが……天城、お前の能力を合わせればこの技は攻防一体を兼ねた最強の技へと昇華するだろう……」


 神堂は天城の前で刀を構えた。天城も槍を構える。


 「強くなれ天城。もう二度と誰も失わないように…… その手で仲間を守れるように……!」


 



 絶体絶命の最中、天城は冷静さを取り戻していた。不思議と肩の傷も痛みはしなかった。


 「終わりだ陽介!」

 

 上空から刃を構えたフウマが風の勢いを加え、物凄い速さで急降下する。

 

 「ああ……そうだな終わりにしよう」


 天城は黄金色に輝く槍を構え、迎え撃つ態勢を取った。


 間もなくフウマの凶刃が天城の喉元に届く瞬間、それは起こった。


 『参ノ型 堅螺回天けんらかいてん


 突如、天城の体が黄金の球に包まれたように見えた。異変を察知したフウマは一瞬の判断で風を制御し、距離を取る為に後方へ下がった。しかし、フウマが逃げ切るよりも速く、黄金の球が全方位に一瞬にして膨れあがったのだった。


 

  フウマには何が起きたか分からなかった。ただ気づいた時には、地面に倒され、全身に無数の切り傷と棒状のもので打ちのめされた痕があった。ダメージは許容範囲を優に超え、もはや体を動かすことすら叶わない。


 「勝負あったな」


 フウマが視線を上げるとそこには天城が立っていた。そして、その時ようやく周りの異様さに気がついた。


 周りにあった木は根こそぎ倒され、岩や壁は大きく抉れ、その全てにフウマと同じような無数の傷痕が残っていたのだった。


 「ふふ……やはりお前は強き者であったか……」


 フウマは天城の実力を認め素直に褒め称えた。


 「……あんたもな」


 天城はフウマの目の前に小瓶を置いた。

 

 「これは……?」


 「俺の仲間の1人が作った治療薬だ。塗れば多少は痛みが引くだろう」


 天城の行為にフウマは驚く。


 「敵である私に情けをかけるか……」


 「あんたにも事情があるんだろ?なら素直に取っておけよ」


 そう言って天城は立ち上がり、呼吸を整え、持っていた布で肩の傷口を縛り、レクターの元へ向かう準備をした。


 「陽介……あいつは正真正銘の化け物だ。心して掛かれ。そして虫のいい話だがあいつを倒してくれ。こっちも人質を取られている……」


 「なるほど……そういうことか……」


 天城は凶悪殺人犯であるレクターに従う3人の行動にようやく合点がいった。


 「俺はもう二度と仲間を失わせない。その為に全力を尽くすだけさ」


 そう言い残し天城はレクターの元へ急ぐのであった。

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