第二十四話 水と紙
〜箱人、技紹介のコーナー 〜
●チトセ 箱:影を操る小刀
『
影を木の枝のように複雑に分けて伸ばし、針のように刺す技。影分身等と併用出来るが、他に影を割く分威力は落ちる。
●牛嶋大五郎 箱:持ち手の先に針がついたハンマー
『シャンパンボム』
地中に圧縮した空気に衝撃を加えて反発させ爆発させる技。持ち手の先の針で穴を掘ることが可能でそこから空気を送り込み、留めることが出来る。
本編
校内のとある一角では学校とは思えない爆音が鳴り響いていた。
「けほけほっ」
爆炎の煙に咳き込む星乃目掛けて紙飛行機が飛んで来る。しかし、その紙飛行機は星乃の付近を漂っていた水のイルカに呑み込まれてぐずぐずに溶け、やがて消滅した。
「行って!」
その隙にもう一体のイルカを白装束を纏うセイメイへと突っ込ませる。セイメイは足元に紙を撒いて小規模の爆発を起こし、煙に身を隠した。
(ちっ……この女、俺にとっては天敵や!)
セイメイはイルカの追跡をかわし、木の陰から様子を窺う。星乃の能力との相性の悪さにセイメイは攻めあぐねていた。
(まずはあの2体のイルカをどうにかせんと……)
『紙爆想造』
息を潜めたセイメイは空中で紙を折り、手裏剣へと変化させた。
「あの人は何処に……」
星乃が身を隠したセイメイを警戒し、辺りを見渡していると、目の前の木の裏で突然爆発が起こった。ミシミシと音を立てて倒れる木の影を何者かが通り過ぎる。
「そこね!」
星乃は矢を射ると共に素早くイルカを突然させる。
しかし、それは罠であった。
紙で出来た手裏剣があろうことか星乃の後方から飛んで来ていたのだ。
(後ろ!?)
星乃は体を捻らせながら咄嗟に前方に飛ぶ。手裏剣との距離を僅かに離し、その間にもう一体のイルカを盾にしようとしたのだ。しかし、手裏剣はイルカに触れる直前で爆発した。
「きゃっ!」
爆風に吹き飛ばされた星乃はすぐさま体勢を立て直すが、地面で擦りむいた右腕からは血が滲んでいた。
また爆発を受けたイルカは頭の部分の水が吹き飛び、下半身だけになっていた。
(この子達は守りの要、すぐに元に戻さないと……!)
星乃は右腕の痛みをこらえて意識を集中させる。すると、下半身の部分に残っていた矢から水が吹き出し、再びイルカの形へと元に戻したのだった。
(なるほどな… 中の矢を潰せばええんか……)
木陰に息を潜めたまま様子を見ていたセイメイは扇についた紙を剥がし空中に投げた。
『紙爆想造』
空中の紙は勝手に折られていき、今度は5体の手の平サイズの大きなカエルへと変化した。セイメイがそれぞれの背中を指で押して離すとカエルは縦横無尽に飛び回り始めた。
「カエルにはトラウマがあるの……!」
飛び出して向かって来るカエルに星乃が複数の矢を放つ。しかし、素早く飛び回る的に攻撃は当たらず、徐々に距離を詰められる。
星乃は2体のイルカを前に出し盾にする。空中を自在に泳がせたイルカは1体につき2体ずつの合計4体のカエルを捉え、水の中に飲み込んだ。
(想定通りや!)
隠れて見ていたセイメイが姿を現し、星乃に向かって来る。その瞬間、2体のイルカの体内から爆発が起こった。中の矢を破壊されイルカは消滅する。
「残念やったな。いくら水に弱いと言っても紙はすぐには溶けん。だから、カエルの中に卵を仕込んで置いたんや」
セイメイは別の紙で折った卵をカエルの中に忍びこませていた。イルカの中に取り込まれた後、使い物にならなくなる前にその卵を爆発させたのであった。
さらに最後の1体のカエルが空高く跳ね、頭上で爆発した。辺りは爆煙に包まれ、星乃の視界を奪う。
(大丈夫……!あの人が攻撃を通す為にイルカを狙っていることは分かってた)
星乃は煙に咳き込みつつも自分の周りの足元に矢をばら撒いた。
(姿を見せてこちらに向かって来てくれるのは私としても好都合です!)
間もなく視界が開いた時、セイメイは星乃のすぐ側まで迫っていた。
「悪いがこれで終わりや!」
『
セイメイが素早く扇を振りかぶると、細かく切れた紙が風を舞って拡散し、星乃に向かって飛んで来たのだった。
(お願い!上手くいって……!)
星乃はその場から逃げようとはせず、小さく屈んで姿勢を低くし、地面に両手をついた。その瞬間、周りにばら撒いていた矢がコポコポと音を立てて勢いよく水を吹き出した。
「何やと!?」
水はみるみる形を作っていき、そして人間のような姿へと変化した。星乃を取り囲むように配置された水の人形が盾となり、飛ばされて来た紙を飲み込んだのだった。
攻撃が不発に終わったセイメイは再び身を隠そうと退避する。
「逃しません!」
星乃は逃げるセイメイに弓を引き絞り矢を放った。
『ドルフィンアロー』
セイメイに向かって飛ぶ矢には徐々に水が纏い、イルカの形になる。そのままセイメイを追尾し、背中から突撃した。
「いっ!?」
セイメイの体は巨大な水の塊がぶつかった衝撃で吹き飛び、目の前の木に叩きつけられた。そしてセイメイはぐったりと動かなくなった。
「や、やりすぎちゃった……?」
セイメイはピクリとも動かない。
星乃は不安になり、様子を確かめようと近づいた。その瞬間、セイメイは立ち上がり、近づいて来た星乃に扇を振った。
不意をつかれた星乃であったが、扇は星乃の首筋に当たる寸前で止まる。爆発する気配もなかった。
「はあ……俺の負けや……」
セイメイは不意打ちをしようとした手を引っ込め、その場に座り込んだ。
「どうして……?」
今の攻撃が決まっていれば星乃はただでは済まなかったはずだ。その星乃の疑問に答えるかの如く、セイメイは持っていた扇を足元に投げ出した。
「これは……」
見てみると扇と巻かれていた紙は水浸しになっていた。
ドルフィンアローの攻撃をもろに受け、扇に水を浴びたことで、セイメイは能力を完全に封じられてしまったのであった。
「私は先に行かせて貰います」
「………好きにしたらええ。でもあの男は俺なんかよりずっと強い。殺されるで?」
「たとえそうだとしても、大切な親友と仲間を放って逃げることなんて私には出来ませんから」
「そうかい………」
星乃の決意にセイメイはそれ以上言葉は語らなかった。
星乃は戦意喪失し座り込むセイメイをその場に残し、レクターのいる先へと向かったのだった。
「まあ……義理は果たしたやろ……」
1人残されたセイメイは空を見上げて持っていたタバコに火をつけた。
「チッ。こっちもしけっとる」
タバコを諦め、寝転んだセイメイが手を開くと、1枚の紙が宙を舞って行ったのだった。
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