第二十三話 コルクハンマーの真髄

〜箱人、技紹介のコーナー 〜


●フウマ 箱:風を操る小手


みだ風車かざぐるま

 腕に渦巻かせた白い風を飛ばし叩きつける技。直撃せずとも、ぶつかった風はその場で周囲に広がり突風を巻き起こす。


断風刃たちふうじん

 風で出来た弧を描く刃を真っ直ぐ飛ばす技。威力は高く、木を容易で切り裂く。

 

疾風はやて

 風の勢いに体を乗せ、空を素早く飛ぶ技。手の向きや風の出力をうまく制御することで空中を自在に飛び回ることも可能である。



本編


 時は遡り、牛嶋はチトセとその分身体の素早い動きに翻弄され、苦戦を強いられていた。

 

 『ポップゴング』による衝撃波を警戒し、チトセは分身体の同時攻撃を避け、正にヒットアンドアウェイで代わる代わる牛嶋を攻め立てる。


「あんたの攻撃はとても強力だけど、当たんなければ意味がないわ」


 牛嶋は次々と迫り来る相手にハンマーを振るうが、チトセや分身体は攻撃の隙間を器用にすり抜け捉えることが出来ない。


 「くっ!?」


 懐に潜り込んだ分身体の小刀が牛嶋の横腹を掠った。牛嶋は反射的に出血する横腹を抑え、後方に下がる。チトセはすかさず牛嶋を追撃するように自身の影を急激に伸ばした。


 『影木針かげきばり


 伸びた影は途中で枝分かれして浮かび上がり、複数の針となって牛嶋を襲う。


 牛嶋は巨大なハンマーを咄嗟に盾のように体の前に突き出したが、影の全てを防ぐことは出来ず、右腕と左足に影が突き刺さる。


 「ぐっ……!」


 影を引き抜くと共に血が滴り、鋭い痛みを覚える。


 (傷は幸い深くはない…だけどこのままだとまずいね……)


 チトセは一度分身体を消滅させられただけで本人は無傷である。牛嶋にとって状況は明らかに不利であった。


 (次の為になるべく温存しておきたかったけど仕方ない!)

 

 牛嶋はゆっくりと息を吐いて、チトセに視線を向ける。


 「何?もう降参? 勢いは最初だけだったわね」


 「まさか…?ここからが本番だよ」


 突然、ポンっという破裂音と共に牛嶋の体がチトセ目掛けて飛んだ。前方を守るように置いていた分身体を通り抜け、一気にチトセに迫り寄る。


 (速い!?)


 繰り出されるハンマーをチトセは間一髪で回避する。しかし、牛嶋の攻撃はそこで止まらない。


 巨大なハンマーを振り回し、チトセを猛追する。


 「くっ! 自棄になったってわけ!?」


 チトセは分身体を操作する暇などなく、回避に徹する。


 ハンマーは当たらないがそれでも牛嶋は攻撃を止めようとしない。学校の敷地内であることはもはや関係ないのか、そこらじゅうの地面がハンマーの大振りでひび割れていく。


 (あの巨大なハンマーを持ってあれだけ動いたらそろそろバテるはず……)


 チトセは追いかけてくる牛嶋の攻撃をひたすらかわし体力を削る。


 遂に牛嶋の動きがピタリと止まった。結局ハンマーでの攻撃は一度もチトセには当たらなかった。


 「はあ…はあ…残念だったわね。結局あんたの攻撃は全部無駄だったわ」


 肩で息をする牛嶋を見て、チトセがニヤリと笑う。そして、動かない牛嶋にトドメをさそうと影を伸ばした。


 『影木針』


 (確かに攻撃は当たらなかった……体力も削られたけど…でも仕込みは済んだ……)


 チトセの影が牛嶋に向かって伸び、枝分かれし始めた時、異変に気付いた。

 

 「何か…… 音……?」


 それは微かではあるがシューーーという空気が抜けていくような音だった。それもその場全体から聞こえて来るような気がした。


 (この音…何処から……?)


 先程まではなかった音にチトセは警戒を強める。耳を澄ませ音の在処を探す。


 (まさか…地面!?)


 その音は確かにひび割れた地面の中から聞こえてきた。そしてよく目を凝らすと、ひび割れに紛れて地面に小さな穴が複数開いているのを発見した。


 「これは……?」


 「気付いたようだね」


 異変の正体に気づいたチトセを見て、牛嶋が口を開く。


 「僕のハンマーの中では空気が圧縮されていてね、それを放つことで爆発的な破壊力を生み出すんだ。

そして……さっきの攻撃の間に僕はそこら一帯に空気を放った。この針を使ってね」


 牛嶋は地面に開いた穴を指さし、同時に持ち手の先にネジ巻かれた針をチトセに見せる。


 「そして、僕が今立っているこの場所がその中心……いわゆる核ってやつかな……」


 「まさか……」

 

 状況を理解したチトセはすぐさまその場から退避しようとした。しかし、もう手遅れであった。


 「地面に溜めた空気を一気に爆発させる……これがその一振り……!」


 『シャンパンボム』


 気づいた時にはチトセの体は空高く投げ出されていた。牛嶋が地面に渾身の一振りを叩き込んだ瞬間、足元の地面が突然盛り上がり、轟音と共にめくれ返ったのだ。


 空中に浮かび上がったチトセは抵抗を試みようとしたが、分身体も同時に一掃されていた為、そのまま落下し、穴ぼこだらけの地面に強く叩きつけられたのだった。


 「かはっ……」


 強く打ちつけられたことで全身に鈍い痛みを感じ、チトセは体を起こすことが出来なくなった。そこに更に高く飛んでいた地面のかけらが落石となって降ってきていた。

 

 「私の負け……か……」


 自分目掛けて降ってくる岩にチトセは思わず目を瞑る。しかし、間一髪のところで牛嶋がハンマーで落石を打ち払ったのだった。


 「どういう……つもり……?」


 「流石に君みたいな子を死なせる訳にはいかないよ。それに君たちがレクターに従うのは何か事情があるのだろう?」


 「これだけ無茶苦茶やってよく言うわね……」


 「確かにやり過ぎたのは申し訳ない……でもハンマーを直撃させない方法としてはこれくらいしかなかったんだ……」


 牛嶋の言葉にチトセは目を丸くし、呆れかえる。


 (最初から手加減されてたわけか……)


 牛嶋はチトセを地面の中から救い出し、近くの木にもたれかけさせた。


 「僕はもう行くよ。仲間達を助けに行かなくちゃならないからね」


 「……勝手にすれば。どのみち私はもう動けないし」


 チトセの表情は暗い。恐らくはレクターから任された役目を果たせなかったせいだろう。


 「レクターのことは僕達が全力で何とかするよ。だから安心して……」


 状況を察した牛嶋の言葉であったが、チトセは無言で何も言わなかった。言葉を伝えた牛嶋はその場を後にし、天城達の向かった先へ走りだしたのだった。


 

 (あの化け物はそんな簡単な相手じゃない……)


 1人残されたチトセは木の影で震えていたのだった。


 


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