第二十二話 辿り着くは死地
〜箱人、技紹介のコーナー 〜
●セイメイ 箱:爆破する紙が貼り付いた扇
『
爆破する紙を折り、違うものに変化させる技。紙は空中で勝手に折れているが、実際はセイメイが頭の中で想像したものが創造されている。紙飛行機なら空を飛び、折り鶴なら羽で宙を舞うように、その折り紙の特徴を使って攻撃することが出来る。
本編
セイメイを星乃に任せた鴉羽と天城は息を切らしつつも、研究棟へ向かって走っていた。
距離を考えても、研究棟までは残り僅かしかなく、タイムリミットはすぐそこまで迫っていた。
しかし、レクターの姿はまだ見えてこない。
「ほう、ここまで来るとはな……」
突然、鴉羽達の頭上から冷静な口調の男の声が聞こえてきた。
声の方向に顔を向けようとした瞬間、鴉羽達の目の前に、何か白い渦巻いたようなものが叩きつけられた。そして、そこから周囲に突風が巻き起こったのであった。
鴉羽達の体は風に吹き飛ばされ、周りにあった木々に叩きつけられた。
「くっ……!」
痛む体を無理やり起こし、その攻撃を行った正体を確かめる。
木の上には、赤い甲冑を身に纏い、目から上の部分だけを鬼のような面で隠した異様な姿の青年が立っていた。
男の腕にはギザギザと歪な形をした灰色の小手がはめられており、鴉羽達はおそらくそれが箱の武器であると理解した。
(こいつが3人目の協力者…… 姿が見えないと思っていたが既に学校に侵入していたのか)
甲冑の男は無言で右手を握る。すると、右腕にどんどん白く光る風が集まり渦巻いていく。
『
右腕を振りかぶると、白い風が放たれ鴉羽達目掛けて飛んでくる。
2人は何とか回避したが、地面にぶつかり周囲に発生した突風に再び体が吹き飛ばされた。
天城はすぐに受け身を取って態勢を立て直し、上空にいる甲冑の男目掛けて槍を放つ。
『双蛇・刃刃』
しかし、甲冑の男は物音一つ立てずに別の木に飛び移り、伸びた槍をかわした。
(風の能力にこの身のこなし… こいつかなり強いな……)
一刻の猶予もない状況に現れた甲冑の男の実力に天城の表情が曇る。しかし、レクターのことを考えると嘆いている暇などなかった。
「鴉羽!もう時間がない、先に行け!俺もすぐに追いつく」
「分かりました!」
天城の意図を理解した鴉羽は、甲冑の男に目もくれず、研究棟に向かって走り出した。
「逃がさん!」
甲冑の男は遠ざかっていく鴉羽の背中に狙いを定め、左腕を向ける。
『
左の手の平から鴉羽目掛けて、弧を描く巨大な風の刃が射出された。
「させるかよ!」
天城は風の刃の側面を伸ばした槍で貫き、技を打ち消した。
甲冑の男は風の刃を打ち消されたことに一切動揺することなく、両手を後ろに回す。
『
後ろに回した両手から突風を吹き出し、その勢いで高速で鴉羽目掛けて飛んだのだった。
速攻で距離を詰め、鴉羽の背中に鋭く伸ばした腕を突き立てる。
その時、ガキン!という金属同士がぶつかり合うような音が、辺りに響き渡った。
そこには突き出した小手を槍で防ぐ天城の姿があった。
天城は風の刃を打ち消した槍をそのまま伸ばし、鴉羽の近くの地面に深々と突き刺していた。そのまま、槍を縮める力を利用して高速で移動し、鴉羽を守ったのであった。
2人はその場で激しく打ち合う。お互いに一歩も引かず、互角の戦いを繰り広げる。その隙に鴉羽は、何とかこの場を切り抜けることが出来たのであった。
鴉羽を見失った甲冑の男は一旦打ち合いをやめ、天城から距離を取った。
「お前強いな…… 名は…?」
甲冑の男の一声は鴉羽を取り逃した恨み言ではなく天城への称賛と関心であった。
「陽介だ! 悪いが語ってる暇はねえ、とっととかかって来いよ」
「そうだな…… 私はフウマ。こちらにも事情がある、悪いが陽介、お前にはここで死んでもらう!」
天城とフウマは一気に詰め寄り、互いの武器を打ち合わせ、火花を散らしたのであった。
♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢
日はすっかり暮れ、月の明かりと研究棟の建物の光があたりを照らす。鴉羽の目の前には、眠る笹原を連れたレクターの姿があった。
「よお、待ってたぜ」
「はぁ……はぁ……笹原さんを返してもらう!」
鴉羽は息を切らしながらも、レクターに向かって刀を構える。レクターは研究棟の入り口にあったベンチに笹原の体を置き、鴉羽に向き直った。
「返して欲しかったら、自力で奪い返してみろよ」
レクターは待ってましたと言わんばかりに目の前に箱を形成した。箱を力いっぱい握ると、中からチェーンで繋がれた5つの指輪が2組出てきたのだった。
レクターはその指輪を両手の全ての指にはめた。
「くれぐれも退屈させてくれるなよナァ!」
気分を高揚させたレクターが吼える。
空気がビリビリと震え、息をするのもやっとな程の威圧感が鴉羽を襲う。
しかし、鴉羽は決して引かない。覚悟を決め、これから起こるであろう激しい闘いに身を投じるのであった。
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