第二十一話 譲れぬ思い

〜箱人、技紹介のコーナー 〜


●チトセ 箱:影を操る小刀


影分身かげぶんしん

 小刀に纏わせた自分の影を切り分けて、自分そっくりの黒い分身を作り出す技。身体能力もほぼ同じであるが、数が増えるごとに一個体の能力は落ちていく。


影落かげおとし』

 自身の影を円状に広げ、相手を拘束する技。影は底なし沼のようになっており、足を取られ体が沈む。影に小刀を刺している時にしか、効力は発揮せず、長時間維持も出来ない。また、他の技と併用することも出来ない。


●牛嶋大五郎 箱:持ち手の先に針がついたハンマー


『ポップゴング』

 ハンマーの中で圧縮された空気が打撃部分から吹き出し、その勢いでハンマーを振り抜く技。空気が吹き出す時にポンっという大きな破裂音が鳴る。強力な打撃は周囲に衝撃波を生みだす。体を持っていかれる為、攻撃後の隙は大きい。



本編


 「牛嶋先輩は大丈夫でしょうか?」


 「安心しろ。普段はマイペースだが、あいつは強い」


 チトセを牛嶋に任せた鴉羽達は全力でレクターの後を追っていた。しかし、先程とは打って変わり、なかなか姿が見えてこない。


 鴉羽達の表情に不安が募る。そして、追い討ちをかけるように突然3人の足元付近が光を帯び、爆発した。


 何とか直撃は避けたが、爆風によって後方に吹き飛ばされる。


 「鴉羽!星乃!大丈夫か!?」


 「はい!」


 「私も何とか……」


 爆発した付近を見るとそこには紙で折られた小さな花が複数置かれていた。

 

 「悪運の強い奴らやな」


 奥の木の影から白い装束を身に纏い、手には紙の張り付いた扇を持っている、飄々とした様子の男が出てきた。それはレクターの側に居た、セイメイであった。


 「結局チトセは1人しか足止め出来ひんかったか」


 やれやれと少し面倒くさそうにセイメイは溜息をついた。


 「レクターは何処!」


 「ああ……あいつならあの娘を連れて先行ったよ」


 星乃の問いにセイメイが答える。


 「だったらそこを通らせてもらおう!」


 天城が槍を構え、セイメイに向かい直る。対するセイメイも扇を構えたが、何を思ったのか突然、扇を下ろした。


 「どういうつもりだ?」


 「なあ、あんたら悪いことは言わん……あの娘のことは諦めてこの場から逃げえや」


 突然の提案に鴉羽達は思わず言葉を失う。


 セイメイの言葉の意味するところはつまり、笹原の事を見殺しにしろという事だった。


 「レクターは… あいつは化け物や。神堂っちゅうのがここにおったら何とかなったかもしれんが、あんたらが行ったところで勝ち目なんてあらへん。ただ死体が増えるだけや。」


 レクターは並の騎士では相手にならない程の凶悪殺人犯であり、実際鴉羽達は対面しただけで、その異様さや底知れなさをひしひしと感じさせられた。セイメイの言う通り、勝算がほぼないのは紛れもない事実であった。


 「わざわざ死にに行く必要ないやろ。引き返すんやったら、チトセにも言ってあっちの戦いは止めたる」


 ほんの僅かな静寂の後、再びセイメイはレクターの追跡を諦めるよう提案した。


 (確かに行けばレクターに殺されるだけかもしれない…… だけど……)


 鴉羽はまだ浅くもあるが、教室での星乃と笹原の何気ないやり取りを思い出す。


 「悪いけど、笹原さんを見捨てるなんて出来ない」


 「ああ、そうだな」


 鴉羽の返答に天城も呼応し、2人はセイメイに対して武器を構えた。


 「はあ……馬鹿な奴らや。なら、こっちにも事情があるんで止めさせてもらうわ」


 セイメイも仕方なさそうに戦闘態勢に入る。


 (鴉羽くん…… 天城先輩…… )


 星乃は笹原を救う為に共に戦ってくれる2人に心から感謝し、そして同時にある決意をする。


 「鴉羽くん、天城先輩、瑞稀ちゃんをお願いしていいですか?」

 

 「星乃、お前……」


 「本当は私が何としても瑞稀ちゃんを助けてあげたい。でも私の力じゃ…瑞稀ちゃんを助けられないから……」

 


 「だから…せめてお二人を先へ」

 

 星乃がセイメイに対して弓を構える。

 

 「舐められたもんやな。レクターは無理でも、俺になら勝てると?冗談も大概にしいや」

 

 『紙爆想造しばくそうぞう


 セイメイが扇を振ると5枚の紙が扇から剥がれた。空中を舞う5枚の紙は、触れる事もなくひとりでに折られていき、折り鶴へと変化したのだった。


 「鴉羽くん、天城先輩、行って下さい!その紙は私が何とかします!」

  

 「分かった!」

 

 鴉羽と天城は星乃を信じて、セイメイに向かって走り出した。


 「お、お前ら馬鹿か!?そのままやと木っ端微塵やぞ!」


 空中を漂う5つの折り鶴を前に突っ込んでくる2人にセイメイは驚く。


 間もなく鴉羽達が、折り鶴の爆発範囲内に入ろうかという時に、上方から突然、巨大なイルカが折り鶴目掛けて降ってきた。


 「なんや!?」


 空中を泳ぐイルカは5つの折り鶴を体内に取り込んだ。すると、紙はぐずぐずに溶け出し、消滅したのだった。


 (チッ このイルカの能力は水か!?)


 爆発が封じられた隙に、鴉羽と天城はたじろぐセイメイを素通りした。


 「鴉羽くん!」


 後方から星乃が叫んだ。


 「お願い、瑞稀ちゃんを助けて……!」


 「ああ!任せろ!」


 星乃の気持ちを託された鴉羽は天城と共に笹原を助ける為に先へと向かったのだった。



 「はあ…… あいつらみんな死ぬで……?」


 2人を取り逃したセイメイが星乃に対して言う。


 星乃自身も鴉羽達を非常に危険な相手の所に自分の代わりに行ってもらったことに胸が張り裂けそうになっていた。しかし、後悔などしている暇ではない。


 (もう二度と大切な人を失いたくない……)


 「皆死なせません!その為にもあなたを倒して私も先へと向かいます」


 「やってみろや」


 セイメイは再び空中で紙を折り始める。星乃も覚悟を決めて戦いに挑むのだった。

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