第二十話 死の鬼ごっこ


 鴉羽、星乃、天城、牛嶋の4人は藤崎と八雲と別れ、笹原救出の為に研究棟へ向かっていた。


 駆け出して間もなく、レクター達の姿を捕捉出来た。彼らは特に急ぐ素振りもなくゆっくりと無人となった校内を歩いていたのだった。


 「ほう 思ったよりは早く来たな」


 「瑞稀ちゃんを返して!」


 「なら俺を止めてみるんだな」


 鴉羽達は全員、箱を形成して武器を取り出し、臨戦態勢に入る。しかし、レクターは此方を舐めているのか、相変わらず箱を出す素振りすら見せない。そして、隣に控えていた笹原を攫った黒装束の少女に話しかけた。


 「チトセ、分かっているだろうな?」


 「分かってる 逆らいはしない」


 そう言うと黒装束の少女は箱を形成し、そこから刀身が紫色に鈍く光る小刀を取り出した。そして、鴉羽達の方を向き、1人臨戦態勢に入る。


 「それじゃあガキども、ゲームの開始と行こうか!」


 その場にチトセと呼ばれた少女を残し、レクターとセイメイは眠らされている笹原を連れ、後方に素早く去っていく。


 「待て!」


 すかさず追いかけようとする鴉羽達だったが、突然無数の黒い人影に襲い掛かられ妨害された。


 『影分身かげぶんしん


 チトセが自身の影を小刀で素早く刺すと、影は小刀に引っ張られ、巻きついた。その刀身から小刀も含めたチトセと全く同じシルエットの黒い分身が10体現れ、鴉羽達を襲ったのだった。


 (俺の技に似て…… いやそれ以上に厄介だ)


 鴉羽の召喚する黒人形に似ているが、チトセの出した分身は、本人とほぼ同じ身体能力を持っているのか非常に素早く、そして的確に小刀で鴉羽達を狙って来ていた。


 分身体を相手にしている間に、レクター達の姿がどんどん遠くなっていく。


 『双蛇そうじゃ刃刃はじん


 このままではまずいと思った天城はチトセ本体を狙って槍を放った。しかし、彼女は軽やかな身のこなしで伸びてきた槍を空中に飛んでスルリとかわしたのだった。


 「ちっ 厄介な相手だ」


 チトセと分身体は回避に徹し、先に進もうとしない限りは深く攻めてこない。完全に時間稼ぎをされていた。


 (このままだと相手の思う壺だ……)


 鴉羽達に焦りの表情が浮かぶ。既にレクター達の姿は見えない。


 「ここは僕の出番だね」


 焦る鴉羽達に声を掛けたのは牛嶋だった。

 

 「大五郎…… 任せてもいいか?」


 「うん。 僕が合図をしたら皆は一斉に先に向かって」


 牛嶋が巨大なハンマーを掲げ、前に出る。すかさずチトセの分身体達が牛嶋に狙いを定め、あらゆる角度から突っ込んできた。


 「牛嶋先輩!」


 「大丈夫、大五郎を信じろ。巻き込まれないように下がれ!」


 迎え撃つ為に牛嶋が構えた手にありったけの力を込める。その瞬間、ハンマーの打撃を加える部分からポンっと言う破裂音と共に空気が吹き出した。その勢いを利用し、加速したハンマーを思い切り振りかぶり、目の前の地面に叩きつけたのだった。


 『ポップゴング』


 強烈な一撃は大地を揺らし、周囲に強力な衝撃波を生み出した。分身体達はその衝撃波に巻き込まれ、跡形もなく消滅した。


 「今だ!」


 牛嶋の合図と共に、鴉羽達はチトセの先へと駆け出した。僅かに遅れて体勢を立て直した牛嶋も後を追う。


 「くっ!? させない!」


 分身体を一掃され、狼狽えるチトセは鴉羽達を足止めしようと反撃に出る。


 『影落かげおとし』


 チトセが再び、地面に映る自身の影に小刀を落とすと、影はみるみる広範囲に広がっていった。


 (これがさっき突然現れた沼の正体か!)


 鴉羽達を捕らえようと黒い影がどんどん広がり追ってくる。


 「足を止めるな、走るんだ!」


 鴉羽達はレクターの向かった方向へ全力で駆け抜ける。すぐ後ろには影が迫って来ていた。


 「うわっ!?」


 1番後ろを走っていた牛嶋が影に追いつかれ、足を取られてしまった。


 「大五郎!?」


 「僕のことはいいから陽介達は先に!」


 足を止めようとした、天城に牛嶋が叫ぶ。


 天城はすぐ思い直し、鴉羽、星乃と共に先に向かった。チトセの影は残りの3人までは届かず、彼らを取り逃す結果となった。


 「やってくれたわね!」


 チトセの怒りが牛嶋に向く。間もなく、広範囲に広がった影が縮み、牛嶋は解放された。


 (この子を陽介達の元には向かわせる訳にはいかないね)


 牛嶋はハンマーを構え、チトセと対峙する。


 「君みたいな子相手に気は進まないけど、仲間達の命が掛かっているんでね」


 「馬鹿にしないで。あんたを倒して、私の影でまたあいつらを捕まえさせて貰うわ」


 『影分身』


 牛嶋と再び分身体を出したチトセとの戦闘が今始まったのだった。

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